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目眩がした。 くらくらと、目の前が揺れるようだった。晴人によって身動きすらままならないように縛り上げられた自分が、その腕に抱かれているのを想像した。
「それは、」
物理的な意味なのか、比喩的なものなのか、判らなくて次の言葉を探す。晴人は何でもないようにうどんをすすり、汁まですっかり飲み込んで口許に残った水分を手の甲で拭った。
「そのままの意味だ。お前が、俺を好きだと言うなら、もう遠慮はしない。ごちそうさま。」
箸を置いて手を合わせて呟くと鋭い目がこちらを見た。
「俺は、お前が好きだ。口にした以上、もう今さら誤魔化しも取り消しも出来ないだろう。事実なのだから、露見すれば下手に隠し立てしたり誤魔化したりする方が不自然だ。」
「でも、俺は、」
「俺を好きなことは事実なんだろう?」
真っ直ぐに背筋を伸ばし真っ直ぐに見つめながら、その目には縋るような色がある。
不安がさんざめいている。
好きな、ことは。
「……はい。」
それは、確かに、確かだ。
出来るなら、晴人の言う通り、晴人に閉じ込められたい。身動きすらできないようにがんじがらめにしてなにも考えられないくらい酷くされたい。頭真っ白になるくらい。
あの夜、みたいに。
じゃあ、でも、その後は。
そうして閉じ込められて晴人に依存して固執して、その後は。
いきなり、放されたら。
ぞわと、背中が震えた。がんじがらめにされた分、拘束のなくなった体はどこに行けるのだろう。どこへ、拠り所を求めれば、いいのだろう。セックスへの依存を強めればいい?玩具じゃもう、足りないのに?奥の深い場所を抉られることを知ってしまったのに?
晴人以外の誰かを探せば、いい?
晴人、以外。
そうしたら晴人は、自分以外を選んで、俺以外を抱いて、俺以外に笑って、俺以外を。
好きに、なるのか。
それは、嫌だ。
いつか離れるのも、今、終わってしまうのも。
「好き、です。」
この言葉を聞いてしまったら、言ってしまったから。
「ごめんなさい、好きです。」
ぱたんと、また、うどん汁に水滴が落ちた。肺がくちくなって、もうあと少しの残りが食えなくなる。
認めてしまったら、もう、どこにも行けない自分に気がつかされた。
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