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「た、だ、い、ま~…あ…っぎゃ!!」 丘川ちゃんはまだイケる!朝まで付き合うぜ!だの、やっぱ無理眠い意識飛ぶだなんだとうるさい丘川をあの後結局3軒まで付き合わせて現在深夜3時。 ふらふらする足に何とか力を入れて家まで帰ってきたはいいものの、玄関の段差に足を取られて盛大に転んでしまった。 あぁ、痛い。地味に痛い。いや結構痛いわ。 でもフローリングが冷たくて気持ちいい。 玄関に足を投げ出したまま、俺はカバンも靴も家の鍵も何もかも放り出してそのまま寝転んだ。 部屋の中はいつものように俺の為に小さな灯りが付いていて、今まではこれに静史の優しさを感じていたが今日は特に何も感じない。結局浴びるほど飲んだ酒のせいで思考回路がふわふわしたままだ。 取り敢えずきちんと認識していることは、ここが自分の家で明日は仕事が休みだということ。 それさえ分かっていれば上等だろう。 よし、寝よう。おやすみ、俺… 「おかえり、京太」 なんて玄関先で意識を飛ばそうとしたら、部屋の奥から寝ていた筈の静史が現れた。 いつものグレーのスウェットに身を包んで、誠実そうな黒髪も仕事の時に見せる戦闘モードではなく無造作に下ろしたナチュラルヘアだ。 静史は感情を表に出さない落ち着いた男だが、その見た目は中身とは正反対でぱっと見キリッとした攻撃的な顔をしている。仕事中なんかはいかにもエリートで、バリバリ仕事できます、というような見た目に強い刺激を感じ惚れる女が後を絶たないという。 だけど、俺はこちらの何にもしてない静史の方が好きだった。戦闘モードの静史には何をしても敵わない気がしていたけれど、オフモードは名前の通り穏やかで柔らかみも感じる。 そんな静史は俺のすぐ傍に腰を下ろして、早速寝転んだままの俺にキスをした。いつものおかえりのキスだけど、今までに無いほど溢れ出る嫌悪感に蓋をする。唇を離しながら静史が静かに眉を潜めた。 「…酒くさ」 「お前からしといてそれはないんじゃねえーの」 「ごめんごめん」 優しく笑って俺の体を抱き起こす。触れられた先からゾワリと鳥肌が立ち飛び退きそうになるが、酒の威力が強すぎて静史にもたれかかるしか無かった。さすがに飲み過ぎたな… 「今、ここで寝ようとしてただろ」 「……ねむい」 「そりゃこんな時間まで飲んでりゃね。風呂入る?それとももう寝る?」 「あー、どうしよ」 眠いが、風呂に入ってスッキリしたい気持ちもある。んー、と決めあぐねていると静史がスンと首筋に匂いを嗅ぐように顔を寄せると、眉間に薄っすらと皺を刻んだ。 なに、臭い? 「煙草の匂いする。丘川さん?」 「うんにゃ、俺の」 サラリと答えて静史から体を離し、ふらふらする足に鞭を打って起き上がった。 「京太が吸ったのか?」 「…んー?あ、お前煙草嫌いだもんな。悪ぃ悪ぃ。やっぱ風呂入るわ」 「待てよ。煙草なんてどうしたんだ。辞めてただろ」 「別にいいだろ、お前の前で吸ってるわけじゃないし」 「…仕事大変なのか?」 静史が心配そうな顔でフラつく俺の体を支えようと手を伸ばしてきて、思わずその腕を振り払って俺は壁に背を向けた。 「触んな!」 「――っ、…京太?」 静史の困惑したような顔を見てさらに苛立つ。そんな心配したようなフリしたって、分かってんだ。 「……仕事、忙しいんだよ。もういいから、お前は寝てろよ」 突き離すような言葉を並べて、俺は静史の顔も見ず背を向け風呂場に向かう。たいして愛してもない酔っ払いの言葉なんか深く取らないだろ? 思った通り静史は俺の後を付いてくることも、それ以上何かを言ってくることもなかった。 ほら、やっぱり別にどうでもいいんだ、俺のことなんて。自惚れてたな、ほんと。恥ずかしい。 俺は酒のせいで弱くなった涙腺に、意地でも静史の居る空間でなど泣くものかと、うすら寒さを覚える浴室でただひたすら顔からシャワーを浴びていた。

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