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あの子とは俺の手に触れてきた取引先の子のことか。 「別になんとも…」 「浮気者に鉄槌を食らわすいい機会では?」 「………」 丘川がニヤリと悪巧みをする小学生みたいに笑った。丘川は俺が浮気されたのに未だ何も相手に伝えず同棲を続けていることを知っている。 「柴、浮気する奴は何度でも浮気するよ?そんな奴とはさっさと別れて次行った方がいいって。尻の軽いやつと別れて正解だって言ってくれたの柴じゃん。あの子可愛いし、いいと思うけどなあ~」 丘川が肩に手を置いて、諭すように言ってくる。丘川なんかに諭される日が来るなんてなんだか悔しいが、…わりかし正論だ。 「…そうだな。やっぱ俺も行く」 「イェ~イ!そうこなくっちゃ!」 支払いを済ませて店の外で待っていた女の子達の元に寄ると、彼女達は店先のある一点を見つめていた。 ヤバイヤバイと興奮するような声が聞こえて、視線の先を辿るとそこには見覚えのある高そうなスーツに身を包んだ男が立っている。 「………え」 その男は店から出てきた俺に気付くと、パッと手を上げてこちらに向かってきた。 咄嗟に後ずさった俺に気付いて丘川が隣で知り合い?と聞いてくるが知り合いなんてそんな生温い関係じゃない。 「お疲れ。飲み会終わった?」 ――なんで、ここに静史が。 場所なんか伝えてないのに。 それになんでスーツなんだよ。俺と違って残業なんか滅多にしない静史がこんな時間まで。もしかして静史も飲み会だった?でもそんな話聞いてない。 色々な事をグルグルと考えていると、静史は俺の隣の丘川に顔を向けてニコリと笑いかけた。 仕事モードの静史の笑顔に傍にいた女の子達だけでなく、その気のない丘川までも驚いたように目を見開く。 「あなたが丘川さんですか?俺、京太の友達の桐谷です。いつも京太がお世話になってます」 「あ、は、はい、どうも。同期の丘川です。こちらこそ柴くんにはいつもお世話になってて……て、え?今日はどうされたんです??」 「ああ、突然すみません。ちょうどさっき仕事が終わりまして。ここらへんで飲んでると京太に聞いたもので寄ってみてしまいました。まさかこんな可愛らしい女性達と飲んでるとは思いませんでしたが」 いや、言ってないよ。 俺はお前にそんなこと一言も言ってない。なに言ってるんだ。 「え~、柴くんのお友達なんですかぁ!良かったら一緒に飲みましょうよぉ」 可愛らしいと微笑まれた取引先の子は先ほどより頬を染めながら、静史を上目遣いで見上げる。その顔はつい数分前まで俺に向けていた筈だったが…現金なものだ。 丘川は女の子達の反応に少し頬を引きつらせながら断る訳にも行かず、俺の背中を叩きながら笑い返した。 「柴の友達なら是非是非!バーに行くんですけど、大丈夫です??」 「いいですね。突然お邪魔しちゃったし俺奢りますよ」 「わー、桐谷さん格好いい!行きましょ行きましょ~!」 女の子達が酔った勢いか静史に腕を絡める。それを後ろから見ながら丘川がコソッと耳打ちしてきた。 「…おいっ、なんだあの美形は…!あんなのが居たら丘川ちゃんの魅力が半減しちゃうだろぉがっ」 「し、知らねえよ。俺もビックリして…場所なんか言ってねえのに…」 「へ?じゃあなんでここに」 「丘川さん」 内緒話をするため俺に顔を寄せていた丘川は、静史の呼びかけに弾かれたように顔を離した。 「ふぁい!?」 「すみません、俺場所分かんないで、こっち歩いて貰っていいですか?」 「あ、あ~そっすね!」 丘川が慌てて静史と女の子達の傍に走り寄って行った。 静史は困惑した表情の俺にチラリと視線を寄越しただけだった。

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