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「丘川さんって凄い仕事できるんでしょう?よく京太から聞いてますよ」
「いやぁ、そんな…マジすか?」
「そういえば、うちの会社でも人気なんですよぉ~!明るくて元気で面白いから」
「マジ?そんなこと言われたら丘川ちゃん調子乗っちゃうよ?」
「丘川さんのトーク力、見習いたいなあ」
「やややー!そんなそんな」
謙遜しながらも、みんなから褒められて丘川は嬉しそうに頭をかいた。最初は文句ばかりだった丘川だったが、静史がさり気なく丘川を持ち上げる話ばかり振るので女の子達も静史だけでなく丘川のことにも興味を持ち直してきて満更でも無い様子だ。
「丘川さんみたいな人うちの会社にも欲しいです」
「それを言うなら桐谷さんこそうちの会社に欲しいっすよー!柴もなんでこんな凄い友達居るのに紹介してくんなかったんだよぉ~」
「お、おお。すまん」
突然話しを振られて俺は分かりやすくキョドってしまった。そんな俺の様子に女の子達が声を上げて笑う。
突然静史が乱入してきたことによって、変な空気になると思ったが場は先ほどよりも盛り上がりを見せていた。
それに反して俺のテンションは訳が分からなくてだだ下がりだが。
「丘川さんって、彼女いないんですよねぇ?」
「そうだよ~、付き合った子がまさかの本命持ちで丘川ちゃんか浮気相手だったのよ」
「え〜!?可哀想っ」
「へぇ、丘川さんみたいな楽しい人を浮気相手にするなんてその子も見る目ないですね」
浮気というワードに静史は少しも躊躇うことなく会話に参加している。俺が浮気に気付いているとはこれっぽっちも思っていないのだろう。いい気なものだ。
胸糞悪い気分になってきて、俺は手元のカクテルをグイッと流し込んだ。
「丘川」
「ふえ?」
何が、ふえ?だ。小首を傾げるんじゃないよ。そのセリフが許されるのは小柄な美少女だけだろ。気持ち悪いな。
と、いつもなら言ってやるところだが、今日は取引先の子も居るし静史もいるので丘川の為に飲み込み、自分が飲んだ分より多めの金額をテーブルに置いた。静史が奢るとか何とか言っていたけれどそんなことはこの際どうでもいい。
「俺、家の猫に餌やらなきゃいけないからそろそろ帰るな。みんな、ごめんね。あとは丘川とそこの美形が楽しませてくれるから」
「柴、猫なんて飼ってなムグッ」
「猫ちゃん居るんですね~!それなら仕方ないです、また飲みに行きましょ」
空気の読めない丘川の口を塞ぐと、取引先の子は静史がいるなら問題無いようで、引き留めることなく笑いかけてくれた。
「是非。じゃ、失礼しまーす」
言うが早いか俺はさっさとその場から離れて、店の外へ出る。明日は休みだから、もしかしたら週明け丘川が文句を言ってくるかも知れないが、また飲みに連れていけば機嫌は治るはずだ。
薄ら寒い中、俺はタイミング良く通りがかったタクシーに乗り込んだ。
家までの住所を伝えていると突然、後部座席の扉が空きサッと誰かが乗り込んでくる。
ギョッとした。
「あっ、お客さんすみません。先に乗られてる方がいらっしゃいますので…」
「大丈夫ですよ、運転手さん。俺こいつの連れだから」
慌てるタクシーの運転手に向かって、営業スマイルを浮かべて俺の隣に座ったのは今は顔も見たくない静史だった。
「は?お前なんで…あそこで飲んでろよ」
「京太が居ないのに居る意味なんてないだろ。金なら置いて来たし。あ、運転手さん同じところで大丈夫なので出してください」
静史の言葉に運転手は前を向き、車を発進させた。
あー、もう。
ほんとに意味が分からない。
何がしたいんだよ、一体。
そんなことするから、俺が勘違いするんだろ。いい加減にしろよ。
なんなんだよ。
マンションの前に着き、タクシーの支払いを静史に任せて、俺はさっさと車を降りた。静史を待つこともせずマンションの入り口を通り過ぎエレベーターの扉の前に立つと、意外と早く支払いを済ませた静史が横に並んだ。
なんだかイライラが絶頂に達してきていて俺はもう爆発寸前だった。
なんで、何も言わないんだ。
勝手にコンパ行った恋人に対して普通なら怒ってもいいんじゃないのか。
もちろん、そんなこと言われたら浮気のことを暴露してやるつもりだが、静史はただ俺の横に立っているだけだ。何も言ってこない。
エレベーターに乗り込み、部屋のドアを開けた後の第一声で「結構飲んだんだろ?お湯溜めるから先入りなよ」なんていつもと変わらない台詞を聞いた瞬間、俺はついに爆発した。
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