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丘川と月曜日の朝 03

「まあ、でも仲直りエッチって気持ちいーよなあ。俺も好きー。でもさ今まで柴にキスマークなんて見た事無かったけど、やっぱ彼女も気が高ぶってたんかね?柴はあたしのよ!みたいな?羨ましっ」 「そういうんじゃ、ねえけど…てか、もう自分とこ戻れよ!朝礼始まんぞ」 照れ隠しのようにグイッと腕を押され、丘川は仕方なく自分の席に戻った。 席に戻り先程までの柴との会話を思う。そういうんじゃない、って他にどういうのがあるんだと笑いそうになる。 あんな見えるか見えないかの微妙なラインにわざわざ付けるなんて柴の彼女もなかなかにやり手というか、いい性格をしてそうだ。 柴をからかうのは面白い。たまに数倍にしてやり返されることはあるが、それでもついつい構ってしまう。 今日の夜も実は何気に楽しみだったりする。 可愛い女の子はもちろん楽しみだが、柴と2人美味しいお酒を飲みながら過ごす時間も楽しいと丘川は思うようになっていた。 かといって仕事仲間という関係なだけで休日に遊びに行ったりするわけでも無いのだが、遊びに行っても楽しそうだな、とパソコンを立ち上げながら浮かびそうになる笑みを何とか堪えた。 パソコンを見ながら1人ニヤけるなどしていようものなら、社内の女性陣にどんな噂を立てられるか分かったもんじゃない。 朝礼が始まるまでに、取引先から来ているメールを確認しようと目を通しているとジャケットの内ポケットに入れていた携帯が震えた。 「ん?」 誰だろうと携帯のホームボタンを押すと、それはつい最近連絡先に追加されたばかりの男からだった。 「桐谷さんじゃん」 柴の友人である桐谷はバーから立ち去る際、また飲みましょうと何故か丘川とだけ連絡先を交換した。そのせいで女性陣から桐谷の連絡先を教えろと迫られることになったのだが、自分が彼女たちと同じく女性だったのなら優越感に浸れたというのに、悲しいかな丘川は男。相手も男。残念でならない。 そんな桐谷から初めての連絡だ。 画面をタップして桐谷の連絡に目を通すと、シンプルにたったのニ行。 《この間はありがとうございました。今日の夜楽しみにしてますね》 はて。今日の夜、とは? 桐谷と何か約束をしただろうか、と首を捻っていると続けて連絡が入った。 《俺の知り合いがいる店なんで、もし丘川さんの気にいる子が居たら紹介できると思いますよ。タイプの子教えてくださいね》 「おっと…これは」 察しが悪いと良く柴に罵倒される丘川ではあったが、これはすぐに分かった。つまり、桐谷も柴との飲みに参加するということなのだろう。柴は何も言っていなかったが桐谷の知り合いの店ということならきっとそういうことだ。 あの桐谷という男。 レベルが違いすぎて劣等感を覚えるばかりであったが、見た目とは違い話しやすく感じの良い男だった。 わざわざ仕事終わりに知らない者ばかりが集まる友人の飲みの席に来るなどよっぽどの変わり者か随分と仲の良い友人同士なのかと思ったが、あの席ではあまり話をしていなかったようで丘川の頭にはさらにハテナマークが浮かぶ。 あの後なにかあったのだろうか。 そういえば聞きそびれてしまった。 「……ま、いっか。夜会うし」 のんびり呟くと隣の同じ営業の後輩に、チラリと見られたが丘川はそんな小さなことは気にしない。どちらかと言うと独り言は多い方である。 ただ、柴と2人じゃなくなったことがほんの少し残念だと思った。 残念ではあるが、桐谷のあの顔ならきっと可愛い女の子とのツテがわんさかあるはず。 今後の自分の薔薇色の未来を想像して今日も1日頑張るか、と丘川はメールの確認を終えたパソコンをパタンと閉じ、元気よく椅子から立ち上がった。

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