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二
気持ち悪い……。
電車の中の人の多さに、息を吸うのも嫌になってきた。
香水、食べ物、体臭、話声、気持ち悪い。
警察なんかに呼ばれなかったら、こんなクソみたいな電車に乗らずに済んだのに。
くそう。
手すりに掴まり、――いや、手すりを両手で抱きしめながら、ゲロみたいな電車の中を耐える。
「あの、――大丈夫ですか?」
そんな俺に声をかけてきた奴がいた。
「ああ?」
「気分、悪そうなので、これ」
ひやりとした冷たいものが頬に当たる。
眼鏡をしたクソ真面目そうな、――ブレザーを着た高校生が、俺に冷えたペットボトルを差し出してきた。
「次の駅で皆、乗り換えますかね、それまで耐えて下さいね」
――爽やかな笑顔。
そこれからずっと傍にいてくれる大切な奴になるとは知らず、俺は行きずりの良い奴の水を静かに飲みだす。
緑の嘘は、――既にもう始まっていたが。
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