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一言、再会。

「やーーっと俺のバイクが修理終わったぜ!」 「もう警察と追いかけっこして傷つけるなよ」 ピカピカになって戻ってきたバイクに何度も何度も口づけをしながら、俺は親父さんに適当にお礼を言った。 車やバイクの修理を引き受ける小さな下請会社。 俺はそこでエンジニアとして働き出してもうすぐ二年。 高校を卒業すると同時に、ずっと憧れていたバイクを弄るため此処で働いている。 「そういや、この前、あの真面目が行く学校の高校生が電車の中で助けてくれてさ」 「へぇ。偏差値70からの進学校の?」 「そうそう。あんな学校に通う奴らは、根も真面目なんだなぁ。あ、ガソリン入れて帰ろう」 「――お前の話は脈絡ねーな」 気をつけて帰れよ、と背中を強く叩かれた。 身長は低くはないが、ななかなか食べても太らない俺は、簡単によろけてしまう。 いつもなら1,2回悪態ついて会話を続けてやるところだが、早く愛車で走りたいので我慢だ。 一刻も早く走りに行きたい。 今の俺には、電車の中で助けてくれた高校生がおぼろげにしか思い出せない。いや、もう眼鏡しか思い出せなかった。 「いらっしゃいませ。レギュラーですか? ハイオクですか?」 被っていた帽子を取りながら、子犬のように駆けてきてそう言った。 「は?」 「レギュラーですか? ハイオクですか?」 そんなの何回も言われなくても分かるっつーの。 「お前、この前の電車の眼鏡?」 「はい! 覚えていて下さったんですね!」 「なんか高そうな眼鏡だったから」 絶対高価な眼鏡のはずだ。光沢からして違う。 って言うか私立の進学校なら金持ちしか行かないはずだしバイトは禁止のはずだし。 「なんで高校生がガソリンスタンドなんかで働いてんだよ」 「大学に通うのにお金がいるからです。学校側からは許可貰いました」 「ふぅん。まぁいいけど」 ハイオクで、と言った後首を傾げた。 俺、こいつにお礼言ったっけな? 高校生はバイトに入って日が浅いはずなのに慣れた手つきでてきぱきと入れていく。 んー。優等生とガソリンスタンドは似合わないな。 「太陽さんは格好良いですよね」 「あ?」 ガソリンが満タンになるのをボーッと腕組みしながら見ていただけだぞ。 しかも女っぽい顔だって自覚してるし。 嫌味なのかと怪訝そうに見ていたら、その優等生はにっこりと笑う。 「以前、一度だけ終電で太陽さんを見ました」 「ふーん」 「酔った女の人に絡む酔っ払いをぼっこぼこにしてました」 「記憶にねぇな……」 電車になんか滅多に乗らねぇし。 それこそ高校の卒業式の打ち上げの日、俺を女と勘違いした酔っ払いに尻を揉まれてぼこぼこに殴った後、……。 殴った後……。 殴った後……? 「どうしました? 太陽さん」 「いや。何でもねぇ」 殴った後、俺の喧嘩を見て泣き出した面倒な女が居たんだ。多分同じ高校。 家に送った後、お礼にとジュースを渡されて。 それが香りは甘いのに味は苦くて。 カクテルだと分かったのは朝。 女に抱き締められて眠っていた朝。 初めてのわんないとらぶとか言うのを経験した。 あの日と優等生と会った日以外電車には乗った事はない。

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