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十四言、KENN
本当に結婚でもなんでもして、俺の前から消えてくれ。
俺の心から、消えてくれ。
どうかどうか、もう二度と俺の前に現れませんように。
だってどうせ、ぐちゃぐちゃに傷つけてしまうんだからな。
「親父、起きて。起きてってば」
カーテンを開けられ、朝日が目に突き刺さる。
徹夜明けの朝には特に。
「あと……五時間」
毛布にくるまり寝返りを打とうとすると毛布を引っ張られ、極寒の外に放り出されるような冷たい空気が襲ってくる。
「あのさ、もうお昼なんだよ! 昨日は何時まで仕事してたか知らないけど、そんな風に限界越えて仕事するの止めてって言ってるだろー」
こいつ。
誰がお前のおしめを代えてやったと思ってる?
誰が夜泣きに付き合ってミルクやったりしてたと思ってるんだ。
あんな可愛かった椿が今じゃあ180センチ越えるクールイケメンだもんな。
俺にちびの頃はそっくりだったのになんで自分だけそんな身体に成長しやがったんだ。
「親父、聞いてる?」
「お前ももう18歳だもんな……」
「聞いてないね」
ため息を吐いた椿は、俺を無理矢理抱き起こす。
あ、目線が高い。むかつく。
「なんでご飯食べなくて仕事するんだよ。本当に倒れられると心配だから止めて」
プリプリ怒っている椿が、俺に山盛りのオニギリと山盛りのハンバーグと野菜がたっぷり入ったスープを用意してくれた。
俺の取り合えず炒めて焼き肉のタレをかける男料理ばかり食べて育ったくせに。
俺みたいに成長しなかったのは少し悔しいな。
「ビール飲みたい」
「はいはい。食後にだよ? 一本飲んだらすぐ寝ちゃうんだから」
「うるせー。ばかー」
「ったく。口が悪いんだから」
そう言いつつも面倒を見てくれる。だがな、椿。
俺だってお前の親だから変化にはすぐ分かるつもりだ。
お前が買いそうにない、だがお前の好みのプレゼント。
冷蔵庫の奥に隠された薔薇の花びらジャム。
あれは誰から貰ったんだ?
恋人なら問題はないんだが……なぁんか嫌な予感がするんだよな。
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