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五
「その手は?」
太陽の手は、歪な絆創膏だらけだった。
せっかく長くて綺麗な指先なのに。
「ゴム手袋してたら、細かい所が上手く出来ないから」
「椿君に仕事の管理任せっきりだからこうなるんだ。こいつ、もう三日眠ってねーで、今、9時間缶詰めして、終わってない仕事してんだよ」
「親父さん!」
どうやら、太陽はこのおっさんになら何でも話すらしい。
どんな関係か分からねえが、信頼しきっている様子が面白くねぇ。
「俺に花束なんざ送ってる場合じゃなかったんじゃない?」
「……うるせぇ。だから、苦渋の選択でお前を呼んだんだ」
「ああ。すっげえ期待して来たよ」
眼に止まった救急箱から、包帯を取り出して、軟膏を塗って絆創膏を貼り直し、包帯を指一本一本丁寧に巻いていく。
「お前、上手だな」
「ガキの頃から、傷が絶えない環境だったんでね」
にやりと笑うが太陽は笑い返してくれなかった。
太陽は、三日眠っていないせいで、肌はいつもの白い肌ではなく、青白かったし、目の下に隈もあった。
薄く開いた唇はかさかさで、今すぐ舐めてやりたくなるほど。
それでも、眠っていないから神経が研ぎ澄まされているのだろうか。
花の色合いや、微妙な位置、リボンや包み紙一つにしても、もはやアートのように美しく、思わず息を飲むほどだった。
指先がボロボロになっても構わずに、自分の表現したい形を上手に表して行く。
その出来上がりは、少し寂しい色合いや、少しでも位置がずれると、全て壊れてしまいそうな繊細な形だったりしたが、
まるで太陽の心みたいで。
俺は離したくないと思った。
このまま、その形を壊さないで、この胸に掻き抱き、離さない。
「できた」
最後の花を太陽が包んだ瞬間、そう言った。
空は完全に朝を迎えていて、鳥の声が頭に響いてくるぐらい疲労した空間だったが。
「貸せ。梱包するから」
ソッと手から奪おうと傍へ近づくと、
ストンとそのまま俺の胸の中に太陽が飛び込んできた。
「おい」
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