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七
Side:太陽
知らない、苦い匂いがする。
甘くない。
甘い匂いなら好きなのに。
酷く苦くて、俺の楽しくて甘い夢をかき消すような。
気持ちよく眠っている夢の中から、引きずり出されるような。
酷く不快な気分に、渋々片目だけ開ける。
「お、やべ。起きたか」
じゅっと、急いで灰皿に煙草を押しつける音がした。
「おはよう。太陽」
すっかり俺を呼び捨てに呼ぶこいつは、苦い匂いで、甘ったるく俺を呼ぶ。
「今、何時?」
毛布が肩から落ちてしまっても尚、俺は夢の中に居るような、ふわふわした気分だった。
「夕方五時すぎ」
「……はあ!?」
テーブルの携帯を掴んで画面を触ると、17:34と表示されていた。
「やっべ。依頼品は?」
「ああ。バイク便へ渡した」
「宛先とか住所とか、色々あったのに」
「椿に電話して聞いたよ。あいつのミスでもあるんだから、太陽一人で頑張ってたことも伝えた」
「はあ!?」
本気で何をしてくれたんだ。
キッチンの椅子で、コンビニかどっかで買って来たお弁当と炭酸飲料を飲みながら、苦い煙草の匂いをさせるKENNへ詰め寄る。
「おまえ! 俺が悪いのに、椿に心配かけさせんな」
「悪いね。家族愛とか理解できないから、そんな気使いできねーんだよ。――アンタが教えてくれるなら別だけど」
フフンとKENNが悪びれもせずに笑う。
「お前には確かに世話になった。なんなら、一回ぐらい願い聞いてやるよ。あ、舐めてやろうか?」
「まさか」
また、KENNが鼻で笑う。
俺の甘い誘いを一蹴りしやがって、腹が立つな。
「その代わり、俺とバイクで勝負しよう?」
「は? バイク?」
「いい加減、こんな風に足で使われるのもたまんねーけど、そろそろ、勝負してこの関係に名前が欲しいかなって」
「名前……?」
「俺とバイクで走って、俺が勝ったらアンタの恋人になるってこと」
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