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思わず、大きく口を開けてしまった。 呆れて、顎が外れてしまったかと思った。 まじか。 こいつ。 「俺、お前なんかに負ける気ないけど?」 「じゃあ、いいじゃねーか。俺と勝負しても」 何か作戦でもあるのかと疑ってしまいたくなるが、 それでどちらの気持ちが強いかと決まるならば全然構わないけど。 「俺の愛は、多分アンタの後ろ向きな心を振り向かせてやれるよ」 馬鹿だ。こいつは本当に馬鹿だ。 「じゃあ、やろうぜ。バイクは?」 「アンタがシャワー浴びてるうちにマネージャーにでも持って来させるよ」 何処までも自信満々だけど、その自信を圧し折ってやる。 恋人。 まだピンと来ないその関係に、俺はKENNとなれる想像ができない。 身体だけとか、一晩だけとか、会ってヤッて帰るだけなら、――恋人の肩書は要らない。 重すぎる。 KENNは、どこまで俺を求めたいのだろうか。皮手袋を、ぎりりときつく慣らしながら嵌めて、髪を束ねて、KENNは口に煙草を咥えていた。 適当にシャワーを浴びて俺が濡れたままの髪で、嫌そうに外に出てきたのを、にやりと笑う。 「ちゃんと、乾かしてこいよ」 「別に、今から風に浴びたら乾く」 「アンタ、子供みたいだな」 「36のおっさんに子供って言うな」 むすっとして俺に気も止めず、濡れた髪に触れた。 「アンタは?」 「あ?」 「アンタは、勝負に勝ったら俺に何を望む?」 濡れた髪に触れたと思ったら、指先で捩っていく。 水分を吸い取って行くような、その仕草にどう返していいか悩む。 あんな電話一本で、文句も言わず駆けつけてくれて。 俺が起きるまで傍に居てくれて。 その行為を、俺は蔑にして、利用するだけでいいのだろうか。 「お前が負けたら、……もう会いに来るな」 こんな後ろ向きな俺にもう、振り回されんじゃねーよ。

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