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九
勝負は、簡単だった。
親父さんの店をスタートとゴールにした。
電話したら、親父さんも疲れているはずなのに、奥さんも居ない今なら大丈夫だと言ってのけた。
親父さんを慕って現れる走り屋も何人か見てくれると言ってくれて、数人の観客の前で俺らは睨みあった。
一回だけ信号があるがそれでけ突っ切れば、丘を回って店に戻るだけ。
勝負は、たった20分間。
KENNがその丘をよく走っていると言うから、ちょっとしたハンデのつもりだった。
ハンデありで負けた方が、KENNも悔しいだろうから。
そう思ったのだけどKENNのバイクは、18年改造をして乗り続けている俺のバイクよりはるかに性能が良くて。
ハンデなんて意味が無かったと思う。
「あのさ、太陽。一つ言っとくけど」
「なんだよ」
「好きなら、綺麗事は言わずに何としても勝てばいいと思わね?」
ヘルメットをかぶりながら、そう笑った。
「ズルしても、誰かに盗られたくないなら――迷っている暇はねえんだよ」
その言葉が、勝敗を決めたのかもしれない。
クラクションが鳴る中、KENNは信号を無視して先に飛び出しやがった。
――信号が変わると同時に出発のはずなのに。
観客のブーイングと、親父さんの大声で笑う声を聞きながら、俺もすぐに我に返ってあいつの後を追った。
まさか、こんな姑息なことをされて、親父さんの背中以外を追いかけることになるなんて。
何としても! 勝ってやる! 負けてやれねえ!
KENNは曲がるときに速度を落とすから、走り方は本当に全然素人だった。
技術面だけなら、すぐに追いつける。
なのに、バイクの性能で圧倒的に不利な俺は追いついても、――追い越すことがなかなかできなくて。
ブーイングが鳴り響く中、俺はあっさりと負けてしまった。
姑息な手を使ったKENNに。
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