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十
「無効だ! ルール違反だ! こんなの俺は負けたなんて認めね―からな」
俺の怒りに、観客は頷く。
KENNは清々しい顔でヘルメットを脱ぐと、不敵に笑った。
「だが、ちゃんと勝負してても勝てた。俺は、太陽のプライドを守ってやったんだ」
「なんだと!」
「もし、真剣に勝負してたら、アンタ、負けたことで心の拠り所が壊れちゃったと思うよ? だから卑怯な手で勝って、アンタをモノにしようと思ったわけ」
モノに――。
その言葉に観客が、首を傾げるので慌ててKENNを殴ると、店の裏に引きずっていく。
「どういうつもりだよ!」
「アンタの高いプライドを粉々に砕いて、中を見たくて」
「じゃあ、真面目に勝負しろよ!」
「――でもあんた、今、屈辱で酷い顔してる。卑怯な奴に負けて、悔しくて酷い顔だ」
KENNは面白そうに俺の髪に触れた。
もう、濡れていない髪に。
「そのプライドを少しずつ壊して侵入していくって決めた。
で、どうする? やり直してはっきりと負けを突きつけられて、プライドを粉々にしてほしい?」
「今すぐ殴ってお前を目の前か消して終わりだ!」
「――観念しろって」
認めるわけ、ない。
こんな、勝負とも言えない勝負。
おれだってコイツのプライドを粉々にしてやりたい。
「分かった。お前と恋人関係になってやってもいい。卑怯で姑息で最低な勝負だったが、負けたのは本当だ。お前だってペットの犬に噛まれたと思えば少しは可愛いと思えなくないかもしれないし」
「流石、太陽」
「だが、俺だって卑怯な勝負をしてやるよ」
にやりと笑って、KENNの足を蹴飛ばすと、よろけたKENNの胸倉を掴んだ。
「俺をイかせられたら、な」
此処までされれば、悪い気もしない。
だったら、どうせ俺の負担の方が多いのだから、その負担を軽くしてもらわなければやってられないじゃないか。
「最後はやっぱりそれか、アンタは」
「まあ、お前がそっちは自信はないっていうならこの話は無理だよな」
にやりと笑うと、KENNは少しだけ考えてから諦めたように煙草を地面に落として、踏みつけた。
「いや、どっちにしろ、そうなるよな。俺も腹をくくるしかねーか」
力なく笑ったKENNは、俺の腕を握ると、寂しげに微笑んだ。
それが、いつもの自信満々なKENNの姿ではなくて、変な違和感を感じた。
抱き締められたのにふりほどけなかったのは、KENNを俺が抱き締めているようにも感じられた。
本当は、抱きしてほしそうな小さな存在に、――見えた。
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