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十一

そのまま、バイクで乗り込むのに躊躇してしまうような場所に、KENNの家はあった。 俺が確かクリスマスに、受付の花の飾りつけを頼まれて行ったが、その時も正装が義務付けられて、仕方なくスーツで花を生けた。 一流ホテルのスイートルームと聞こえはいいが、若者向けに少人数からの結婚式も受け付けるようになり、俺もちらほら仕事を頂いているホテルだった。 「俺、こんな格好だぞ」 KENNのバイクの隣に停めながら、ジーンズとパーカーというラフ過ぎな姿に溜息が出る。 「大丈夫。マネージャーもそんな感じだし。俺に注目する奴はいるが、太陽の服装まで見る奴はいねーだろ」 「……すごい自信だな」 KENNはそう言ったが、受付の女の子に名前を呼ばれて挨拶までされてしまった。 覚えられてんじゃねーか、俺。 「太陽も綺麗な顔してるの忘れてた」 「忘れんな」 「あの女、まあキツイ感じだが綺麗じゃねーか。太陽は女は興味ね―わけないのに」 ロビーを抜けて、エレベータを待つ間、そう言われた。 「どうみても、――椿の方が歳が近いだろ」 「それに、俺が居るし?」 「もう恋人気取りか。ガキ」 よく分からんが、綺麗でも今の女と俺と椿が三人で食卓を囲むイメージが持てなかった。 KENNはそんなイメージを最初から持つ予定もない相手だから気が置けなくて良いのかもしれない。 エレベータに乗り込み、外が見えるガラス貼りだったのに目を奪われた隙に、 その夜景をゆっくり見る暇もなく、壁に押し付けられて奪われるようにキスをした。 息を吸うのも許されないような、荒々しいキス。 煙草の苦い味を、確かめるように歯の裏を何度も舐めるとKENNはその倍になって舌を動かす。 水音に交じって、乱れていくお互いの吐息が、ガラスを曇らせる。 視野を曇らせていく。 頭がおかしくなっちまうような、熱いキスはきらいじゃなかった。 冷静な自分なんて、今はいらない。

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