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五
俺がKENNの手を取ってから、こいつはガキの様にブンブン尻尾を振って俺を喜ばせようとしたり、やたらスキンシップが激しかったり。
おまけにこれだ。いつかするんじゃねーかと思ってたけど。
椿の気持ち云々と言って渡してた新曲から、――半年も経ってねーンだけどな。
「まあ、発売日に聴いてやるから持ってこいよ」
「今、此処で耳元に囁いてやろうか」
「結構だ」
甘い声でそう言うと、KENNがソファにそのまま雪崩れ込むように俺に覆いかぶさって来た。
「KENN。あのなあ」
「分かってるよ。アンタは、全然素直じゃないから、時々嘘を吐くんだ。恥ずかしいから冷たくしたり、な」
「――性分だ」
「諦めてやるから、もっと甘い嘘、ちょうだい?」
にやりと笑うとKENNの手が俺の唇に触れた。
「断る」
「太陽」
「まずは、飯だ。い、一緒に飯を作るぞ」
身体のコミュニケーションの方が楽なのは、楽だが――。
俺達の、まだ始まったばかりの頼りない恋は、色々な経験を重ねて行かなければいけないから。
俺も逃げないことにする。
「よし。フライパン、持ったこともねえけど、太陽の為に作るか。何にすんの? 焼きそば?」
「素麺」
「は?」
「素麺」
麺茹でて、ネギ刻むだけ。麺つゆは、市販の。
「最初は簡単なのからで良いんだよ」
「カレーのルーがあったから、せめてカレーぐらいの二人の共同作業ぐらいさせてくんえーの?」
素麺に不満しかないKENNが、冷蔵庫を開ける。
「俺、甘口しか食べねーぞ」
「じゃあ、俺も」
嬉しそうにKENNが、笑う。
仕方ないから、野菜をゴロゴロ取りだしてシンクで洗うと、KENNが包丁も持ち出した。
「で、どの皮から切るか」
「初心者どころかド素人の分際で、包丁で皮が剥けるか! ピューラーがあるだろ」
「ピューラーって?」
「!?」
本当に料理に触れて来なかったのか、首を傾げられてしまった。
仕方ないか。
いちいち、野菜を渡す時に微かに触れる指先にドキドキしてしまう。
そんなの――言葉にしたら36歳なのにダサすぎるから頑張って嘘を身に纏うけど、きっといつか気づかれて甘くおねだりされてしまうんだろうな。
KENNの豪快で自分の手まで切ってしまうそうな皮むきにハラハラしていたら、テレビの中のKENNが新曲を歌いだした。
俺の名前まんまの、何も捻りのない、愛の歌を。
そんなストレートなKENNだから、良かったんだと思う。
御互いの不器用な心を――これからゆっくり曝け出して行こう。
ストレートで偽りのない、力強いKENNの歌の様に。
「KENN」
「ん?」
俺は、KENNの手から野菜を奪うと、背伸びしてKENNの唇に自分の唇を寄せた。
Fin
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