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約束は破るためにある2
寒い。
そりゃそうか、もう2月だもんな。
でも今年は少し寒さ事情が違う。
だって、
「伸びたよなぁ、真広の髪。」
大学の友人とカフェで紅茶を飲んでいれば、不意に後ろ髪を引っ張られる。
グキッてなるから止めて欲しいんだけど、なんかその動きが面白いのか皆によく引っ張られるんだよなぁ。
「やっとね。ここまで伸ばすのに結構時間掛かっちゃった。」
涼さんと出会って1年半。
つまり俺が髪を伸ばし始めてから1年半が過ぎた。
最初は鬱陶しかった長い髪も今ではすっかり慣れた。
しかも冬場には首回りが温かいという特典つき。
生活するのに邪魔になるから一つに束ねてるけど、それが功を奏したのか思っていたより早く、そして長く伸びたように思う。
ただ、どこまで伸ばすのが正解なのか分かんないんだよなぁ。
「切らねーの?」
「うん切らない。これ、約束だから。」
ニッコリと笑って見せれば、友人は少し慌てたように視線を逸らす。
「へ、へぇ。まぁ良いんじゃね?似合ってっし。」
そう答える友人の耳が僅かに赤くて、そして動揺したかのように声が引っくり返っている。
「…大丈夫?お腹でも痛い?」
「いやっ、別に!」
どこかソワソワした様子が心配になり顔を覗き込めば、ガタンッと後ずされた。
あ、ちょっと傷つく。
「なんで逃げんのさ。」
「逃げてなんか…!」
ピリリリ…
友人の声にスマホの着信音が重なる。
鞄の中から響くそれを急いで取り出し画面を確認すれば、そこには約束相手の名前。
「ゴメン、ちょっと出るね。」
どこかホッとした様子の友人に声をかけその場でタップする。
何だろう。
仕事で海外行ってるから、向こうは夜中のはずだよね。
そんな時間に電話してくるなんて珍しい。
それでもかけてきてくれた事が嬉しくて、ウキウキと電話に出れば耳に心地よい低い声が届いた。
『お前誰にでも髪触らせてんじゃねぇよ。』
「はい?」
あ、違った。
耳に心地よいじゃなくて、地を這うような声だった。
『あと、ちけぇ。もっと距離とれ。』
「は?何言って…ッ!」
耳に当てていたスマホが上からヒョイッと奪われる。
突然のことに驚き、現れた手の主を確認しようと振り向けば。
「……バカ面」
「涼さん!」
「え、渡涼!?」
そこにはショーから帰ってきたばかりなのか、キャリーケースを携えた涼さんが立っていた。
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