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君の吐息

「いつ帰ってくるの?」 「三ヶ月後」 「…思ったより長いね。」 冬空の下。 呼び出されて告げられた言葉に少なからず動揺した。 言った本人は夜空を見上げていて、白い息が空気に溶けていくのをぼんやりと眺めているけれど。 君はいつもそうだ。 大切なことは黙ってて、直前になって初めて知らされる。 今回の海外研修の件だって、何も出発の2週間前に知らせなくても良くないかな。 もともとそれほど喋る方ではないし、頻繁に会えていたわけでは無いけれども。 メールも電話も、いつも僕からだし。 デートだって月に数回だし。 セックスだって僕から誘うばかりだし。 ……あれ? もしかして僕、言うほど好かれてない? いや、でも、誘えばちゃんとその気になってくれるし。 『もう一度良い?』と抜かずの2roundに入ることだってあるし。 けれど、そんなの男なら普通の生理現象だと言われると何も言い返せないな… だいたい三ヶ月も会えないことをこんなにも平然と口にする辺り、それほど僕には執着していないと突きつけられたようで。 「…………そっか、三ヶ月か」 自分も視線を夜空に向け、ぐるぐると回るマイナス思考から逃れるように目を瞑った。 平静を装おうとすればするほど君の顔を見ることができない。 「見送り、、、行こうか?」 「いや、いいよ。」 「……そう」 思ったよりも強い口調で断られ、ズキッと胸が痛んだ。 ああ、これはもうダメだ。 呼び出された理由はきっと一つ。 『別れ話』 そりゃそうか。 こんな硬いだけの男の体なんかより、女の方が良いに決まってる。 もともと君はノーマルだし。 僕が必死でアプローチ仕掛けて、君が酔ってるのを良いことにベッドに誘って。 男相手は初めての君の下で恥ずかしげもなく乱れた。 もう君を自由にしてあげないとね。 「…じゃあ、見送りには行かない。その…元気でね、今までありがとう。すごく楽しかった。」 「え、」 優しい君から別れ話をさせるのは申し訳ないから。 無理矢理笑顔を作って告げる。 ちゃんと笑えてるかは自信ないけど。 それでも僕は君のことが大好きで、一緒に過ごせた時間はかけがえのないものだから。 最後は笑顔を見せたい。 「…えっと…寒いし、もう戻るね。」 「……………」 驚いた表情の君の視線に耐えかねて背を向けた。 鼻の奥が痛い。 喉が詰まって、息すら上手くできない。 ズッと鼻を啜ったのは寒いからだろうか。 「寒い?」 「…!!」 その場から去ろうと足を踏み出したその時。 フワリと温もりに包まれる。 首筋に当たる君の吐息と唇。 それだけのことにザワッと甘い痺れが走ると同時に、背後から柔らかく抱き締められていることに体が硬直した。

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