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その口から聞きたい
シャワーを浴びる音。
広くはないアパートのベッドの中で、由直(よしなお)が上がってくるのをドキドキしながら待つ。
物心ついた頃からいつも側にいた。
気づけば幼馴染み以上の感情を持っていて。
男同士であることに絶望して、諦めようとして、距離を置いた。
由直に気づかれるわけにはいかないと、良き幼馴染みでいようと···好きでもない女の子と付き合ってみたり、架空の恋愛相談を持ちかけたり。
そのたびに自分の心が死んでいくようだった。
なのに、
『弘人はさ···隠し事できないタイプなの自分で気づいてないだろ』
半年前、宅飲みで酔っ払った由直に押し倒された。
その怒ったような目付きが俺の心を見抜いていて、返事ができない自分の唇に由直のそれが重なっても動くことが出来なかった。
『···好きならさ、ちゃんと言えよ。ばーーか。』
そう言って笑いながら何度もキスをしてくれた。
柔らかい唇。
暖かい身体。
フワリと香る由直の匂いとアルコール。
何年も我慢していた欲望を崩すには十分過ぎるほどのキスに、俺の中で何かが振りきれた。
『はっ···由直···由直···!好きだ···』
『ん、知ってるよ。バカ弘人···ンアッ···!』
体勢を変え、腕の中に閉じ込めた由直の身体を暴いた。
優しくしようと思ったのに、恋い焦がれた温もりに我を忘れた。
『ごめん、ありがとう···愛してる···』
『うん、俺もだ』
今まで伝えられなかった想いをぶつけるように何度も愛を囁く俺に、由直はニッと笑って応えてくれた。
あの夜から半年、幸せ過ぎる毎日。
だけど···一つ気づいた。
俺、由直に『愛してる』って言ってもらったことない。
『好きだ』『愛してる』と言えば
『俺もだよ』と返してくれる。
でも、由直の口から『好きだ』『愛してる』と聞いたことは···ない。
「分かってるけどさ~···」
ちゃんと愛されてることも、言葉にするのが恥ずかしいだけだと言うことも。
態度で、ベッドの中で、見つめてくれる瞳で、それはちゃんと伝わってくる。
けど、やっぱり言葉でも聞きたい。
あの口で紡がれる愛の言葉が聞きたい。
「···ワガママかなぁ」
「何が?」
「···!!」
瞳を閉じ悶々としているとポタッと頬に落ちる水と声。
「ビックリした、上がったんだ。」
「おう、お先。で、何がワガママ?」
「えっと」
身体を起こしベッドに腰かける俺の隣に由直もストンと座る。
シャンプーと石鹸の匂い。
パン一で出てくる無防備さ。
まだ水が滴る頭をガシガシと拭くその姿に、下半身に血液が集まる。
引き締まった腹筋に舌を這わしたい。
淡く色づく乳首に歯を立てたい。
仰け反る身体を押さえつけてガンガンに突き上げたい。
乱れる由直の姿を思いだし、凶悪なまでの欲望が沸き上がる。
「顔、こえーよ。」
遠慮なくガン見していれば、クスクス笑いながら頬をつねられる。
俺の欲望なんかとっくにお見通しで、分かっててこうやって裸同然の姿で隣に座る。
「っと、おわ!」
「誘うならもっと色気あっても良くない?」
「はぁ?俺にしな作れってか?くねくねと。」
ベッドに組み敷き首筋をスンッと匂いながら言えば、ケラケラと笑いながら腰をくねらせる。
「あははは!似合わないね!」
その態度が可笑しくてつられて笑えば、くねらせていた腰をグッと押し付けてきた。
「だろ?だいたい色気なんか無くたって、お前は落ちるだろうが。」
「っ!」
グリグリと自分の下半身を俺のぺニスに押し付けてくる由直に、熱が集まり始めていたそこが完全に臨戦態勢に入った。
「おら、出し惜しみすんな。やろーぜ。」
足を腰に絡ませ、長い腕が俺の首を引き寄せる。
欲情した瞳が細められ口角がニッと上がる、その男らしい笑いに心臓が早鐘を打つ。
ほんと敵わない。
「大好き、由直···」
「んっ···」
囁きながら口付ける。
「はっ···弘人···ンンッ···」
名前を呼びキスに応えながら、背中に回されていた手が俺のシャツを捲ったー。
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