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楓と宮永(※)

校舎の裏庭に面した位置に建てられた弓道場。 部活も無く誰もいないその広い的前に、楓先輩が凛とした空気を纏って立っている。 タンッ...! 放った矢が遠く離れた的に当たり、気持ちの良い音を鳴らす。 表情ひとつ変えずに退場していく姿を、壁に寄りかかりながら見つめた。 ...袴姿は反則だよな。 ボロボロになった制服を脱ぎ袴に着替えた楓先輩の色っぽさに、腹の奥がムズムズとする。 部活動には参加しないくせに人がいなくなるとフラッと弓を引きに来る。 『弓を引いている時は気持ちが落ち着くんだよ。』 どうして弓道を続けているのか聞いたときに教えてくれた言葉。 その表情はいつも他校の不良達と喧嘩をしている時のような粗野な感じはなく、どこか大人っぽさを感じた。 こうやって放課後に一人で弓を引く先輩を待つのが日課になり、最初は敷居が高く感じていたここが今ではすっかりお気に入りの場所になっている。 「ミヤ、どうした?」 声を掛けられハッとする。 いつのまに側に来ていたのか、座り込んだ俺の前にしゃがみこみ顔を覗かれた。 少し首を傾げたその仕草が可愛い。 「...別に。終わったんですか?」 「ん、片付けた。」 そう言って笑った楓先輩の表情と、視界に入ってきた首筋の白さ。 きっちりと着こなした胴着と袴はどこか神聖で。 ストイックなその姿にムラムラする。 「も少し待ってろ、着替えて来る...っ!」 「楓先輩ってさ、綺麗だよな...」 立ち上がろうとした先輩の手を掴み引き寄せる。 バランスを崩した身体を膝の上に抱き上げ、逃げられないように腰に腕を回す。 そうしてその白い首筋に顔を埋めれば、「んっ、」となんとも言えない声を出した。 「色っぽい声...誘ってる?」 「何言って..離せ!」 「ダーメ。お利口に待ってたんだからご褒美くれなきゃ。」 「ンンッ...」 暴れる身体を抱き込み無理矢理口付ける。 身長はそれほど変わりなくとも、体格的には俺のが勝ってる。 後頭部を押さえつけ逃げられないようにしてから舌を差し込めば、腕の中でピクッと震えるのが伝わってきた。 チュッ、クチュ... 歯列をなぞり上顎を擽る。 息継ぎをする間もなく舌を絡め、軽く吸い上げれば、背中をドンッと叩かれた。 「ンッ、...ミヤ、くる、し...」 「...もう?」 クスクス笑いながら抵抗を止めた先輩の顔にキスを落とす。 「キスの時は口で息するんじゃなくて、鼻でするんだよ。」 「っ、知ってるよ...!」 額、瞼、鼻の頭、頬... チュッチュッと音を響かせながら少しずつキスの位置を変えていく。 そうして口の端にもう一度キスを送れば、今度は楓先輩から唇を触れ合わせてきた。 「はっ..ミヤ...」 「うん、」 子猫が舐めるように下唇を舐められ、上擦った声で名前を呼ばれる。 迎え入れるように口を開けば、おずおずと差し込まれてくる舌先。 可愛い....このまま抱き潰してしまいたいくらい、可愛い。 『んだよ、見てんじゃねぇよ!』 初めて裏庭で会った日。 通りがかったそこにいたのは、校内でも有名な不良の面々で。 ただ一人立っていた楓先輩は、喧嘩で切った口の端を手の甲で拭いながら睨んできた。 足元には三人の不良。 その人数相手に勝ったのかと感心したのと同時に、睨んでくる瞳が綺麗だと思った。 「...先輩」 一頻りキスを堪能しゆっくりと唇を解放すれば、恥ずかしそうにクシャッと顔を歪めた。 「ったく、...これで満足だろ。」 「まさか。もっと欲しい。」 背中を意味深に撫で下ろし、袴の裾をたくしあげ手を差し込む。 引き締まったふくらはぎを辿り、皮膚の薄い太股の付け根までを何度も撫でた。 「あ...待てって、ミヤ...」 あの日怒鳴ってきたのと同じ声が、こうして甘く俺の名前を呼ぶ。 たったそれだけでも、下半身に熱が溜まっていくようだ。 「ハッ...んっ..!」 柔らかい耳朶を唇で挟めば声を詰める。 それに気をよくして耳の穴に舌を差し込み、耳殼を擽るように舐めた。 「も、ほんとにヤメ...」 制服をギュッと掴み、小さく身を捩る様が俺を煽る。 「でもここは反応してるよ...?」 足の付け根。 そのさらに内側まで手を伸ばせば、反応を示し始めた楓さん自身があって。 「ンア...!」 指でソコをツッ...と辿ればビクッと身体を震わせた。 たまんない... その反応が愛しくて。 もっと感じさせようと胴着の袷に手を潜らせていった。 「こ、の...ふざけん、な...!!」 ガッ!! 「イッ....!!!」 袷に忍ばせた手を掴まれたかと思うと、頭に衝撃が走る。 「ってーな!何すんですか!!」 頭突きをかまされた額を擦りながら訴えれば、ギリギリと手首を掴む手に力を入れられた。 「『何すんだ』はこっちのセリフだ!こんなところで盛ってんじゃねぇよ!」 目尻を赤く染めながら睨まれる。 その強い目力に負けじと視線を合わせれば、「睨んでんじゃねぇ!」ともう一度頭突きを喰らった。 「っつー....怒ってるけど、楓先輩だってけっこう乗り気だったクセに。」 「っ、それは、その、、、」 恐らく赤くなっているであろう額を押さえ恨みがましくボヤけば、ゴニョゴニョと言い淀む。 「...良いよ、じゃあ場所変えよう。その代わり、」 「っ、」 ニッコリと微笑みながら頬を撫でる。 悪いが、生まれてこのかた外見で苦労したことはない。 甘く微笑んで見せるだけで、大抵の女は落ちてきた。 まぁこの人相手には計算もへったくれもないけど... 「今日は手加減しないから。」 「.....!!」 耳元に口を寄せワントーン落とした声で囁く。 途端に真っ赤になるのに満足しつつ、先輩の手を引いて立ち上がったー。

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