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第1話
「最近ほんっとに太ってさぁ…僕の肉を減らしてくれていいから、その分、給料上げてくれよって思うわけ。」
「またまた、麻宮さんは早朝のジム通いで、ムキムキと噂ですよ。一度その身体、拝みたいっす。」
「ナニナニ、今流行ってんだってね、そういう男同士の…萌え、だっけ。女子社員の見てる前でなら、こういうのやったほうがモテるわけ?いいよ、高遠。僕の胸に飛び込んで来ても…」
「「「 ハッハッハッ 」」」
麻宮蒼甫(あさみやそうすけ)部長がいると、部内は明るい。
45歳の働き盛りで、統括部長。
奥さんに先立たれ、家庭も顧みなくていいからなんて、心無い陰口を叩くうだつの上がらない同年代のモサイおっさん連中を尻目に、派閥抗争に巻き込まれる事なく華麗なスピード出世を遂げた。
部下の信頼も厚く他社からヘッドハンティングの噂を聞きつけ、会社が慌てて部長から統括部長というポストを用意してまで引き止めたとの噂まであるけれど、当の本人は飄々として、年がら年中くだらない話ばかりで、ガツガツ仕事をしている風でもない。
おまけに年齢とは思えない程、綺麗に整った顔と身体はシュッとしていて、死角のない男。
そして、俺はそんな麻宮さんに一方的な片想いをしている。
笠置賢斗(かさぎけんと)27歳。
「笠置、営業成績が今月もトップだって?おめでとう。誇らしいよ、君のおかげで暫くうまい酒が飲めてる。おまけに部内きっての、イケメン高身長だもんな。前は妻に捧げているから、後ろの穴は好きに掘ってくれ。」
「「「 ハッハッハッ 」」」
「麻宮さん、ご機嫌っすねー」
「そらぁね、笠置賢斗様々だよなぁー。優秀な人材ってさ勝手に育ってくれるから、僕、超楽ぅー」
皆が好き勝手言ってるが、俺は面白くない。
「麻宮さん。俺、笑えません。」
ピタッと、部内が静まる。
「笠置…?茶化して悪かったな、次も期待している。」
バツが悪そうに頭を掻いて、麻宮さんが謝る。
皆も馬鹿騒ぎはやめてディスクに向かう。
俺はその場に立ちすくしたまま、心の中で貴方に呟く。
…本気にしてもいい?
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