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第2話

麻宮さんと初めて会ったのは、俺が入社して3年目の時だ。 俺にとっては試練の年で、エンジニアとして進めていたプロジェクトの軌道に乗る見通しが立ったので、上司に報告すると、今までそんなやり方はした事がない、と大反対されポシャりかけた。 別のセクションから来ていた麻宮さんが、その一部始終、俺達のやり取り全てを見ていたらしい。 持ち前の人当たりの良さで、瞬く間に情報を集め、経緯を知るとふらりと俺のデスクに遊びに来てこう言った。 「僕の方で責任持つから、笠置、君が主導で好きなようにやってみなよ。」 と、背中を押してくれたのだ。 新規に立ち上げたプロジェクトは確かに最初は面倒だったけど、慣れてくればお客さんも喜んでくれて、結果的に社長賞を貰えるまでの成果をあげた。 俺の初めての勲章だったからお礼を言いに行ったのだけれど、麻宮さんはいいってと気にするでもなく、それよりもと真剣な顔で俺にアドバイスしてくれた。 「笠置、君はさエンジニアには向いていないと思うよ。上司に逆らわずに今まで通りの仕事をするのが、あの部では正解。うちの農耕民族的なのが、向いてる部署だ。君は、まごうこと無き狩猟民族だよ。営業においでよ、きっと仕事が楽しいよ。決心がついたら僕に言ってね。季節外れの配置替えも、意外と得意なんだ。」 片目でウィンクする麻宮さんが格好良くて、その時の気持ちが何なのか分からなかったけれど、前の仕事への未練も営業に行く不安も何もなく麻宮さんに営業に行かせてくださいと即答した。 「案外、せっかちだね、君は」 麻宮さんの困ったような、けれど嬉しそうに笑う顔は今でも忘れられない。

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