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第2話 隣人不在の鍵掛けの夜
「―……ねえねぇ、テュラはさ、こっちとこっちのエプロン、どちらが良いと思う?」
「……え……」
エルン……何故、それを俺に聞く……? 俺の心を無邪気な笑顔で抉るなー!
そして見せられたのは繊細なレースがふんだんに使われた薄手の……多分、シルクの白いエプロンと、シンプルだけど製法が確りとして左端にワンポイントがある白いもので……
「お、俺は……こっちのシンプルな方が良いと思う……かな?」
「ふぅん?」
よ、よし! 何とか答えたぞ!
エルンの意図は分からないが、答えた事で変におかしく思われないハズだ。
俺は妙なドキドキ感に囚われながらエルンに視線を向け、彼を観察した。
エルンは二枚のエプロンを目線に持ち上げて凝視して、頭の中で何か処理している様だ。
ほんの数十秒だと思うが難しい顔をしたエルンが、今度は急に"ぱっ"とした笑顔に変わり俺の方を見た。
そして笑顔のまま形の良い口を開き……
「んじゃ、今夜はテュラが選んだこっちにしようかな!」
「え……」
"ヒラリ"と細い腰に俺の選んだエプロンを着けて後ろでリボン結びを作り、エルンは薄い翅を僅かに動かし足取り軽く扉に向かった。
薄い翅がエルンを僅かに持ち上げ、傍から見ていると丸でスキップをしている様な軽やかさだ。
俺はエルンの後姿を眺めながら、御主人様の後姿を思い出していた。
黙って見つめる事しか出来ない自分……。
……夜この時間に部屋の外……エプロン、とくれば余程の新人でない限り、察しが付くってもんだ。
しかもエルンは成人している。その証拠にズボンは"黒のスラックス"だ。
俺はまだ未成年だから、黒の膝丈ズボンにハイソックスなんだけど……。
まぁ、使用人の世界では普通な事だし、相手の年齢が簡単に見分けられて便利だ。
……それにしても、今夜……エルンは御主人様に呼ばれ、部屋に行くんだ。
御主人様が選んだエルンにとエプロン。
彼に似合う様に出来ている、愛情の証。
―特別な存在……
「あ、そうだ。テュラ、夜は色々危険だから、ちゃんと鍵を掛けて寝るよーに!」
突然エルンの明るい声が思考を押し退けて俺に入ってきた。
俺は反射で「ウン」と声を出して頷いた。
エルンは俺の様子に疑問を抱く事無く、満足そうに自身も頷いてそんな忠告を残し出て行った。
―カチャ……
「……鍵、よーし……」
エルンが部屋を出てから早々に鍵を掛け、無意味な声だし確認。
危険そうな事や……色めいた事など、どうせ何も起きないよ。
俺はこの屋敷の唯一成人していない、一番下っ端の薄翅族の使用人。エルンの相棒。二人部屋の片割れ。
この屋敷内ではこの程度の認識だ。
あ。『二人部屋の片割れ』ってのは、使用人と言えども大体一人部屋を与えられる中で、何でか俺は長年エルンと二人部屋なんだ。
エルンが成人したら分けられると考えていたんだけど、結局一緒だし……。
まぁ、一応仕切りも有るし別にもう慣れてしまったからあまり気にしてないけどさ。
鍵を掛け終えて部屋を暗くし、俺は早々にベッドに向かい自分の温もりへ帰った。
そして息を潜めて辺りを見回す。
「…………」
自分以外の存在を感じない部屋。
今頃……エルンは御主人様の部屋に着いて……何を話し始めているのだろう?
御主人様の傍に行き、彼に今日の姿を褒められているのだろうか?
「…………」
エルンは大体空が白み始める前にこの部屋に帰って来る。
部屋は暗いし仕切りが存在しているから、彼がこの部屋にどんな姿で帰って来ているか俺は分からない。
分からないけど、微かにフワリとお酒の匂いや香水が部屋の空気に溶け込む事がある。
それに……御主人様の匂いもする。
そりゃぁ……御主人様の部屋に行っているんだし、近くに寄って……なんてのは普通だろう……し……。
「…………ぅ~~……」
急に嫉妬と哀しみが自分の内部で弾けて、胸元を押さえて布団の中で丸くなった。
二人を思うと、いつも『好き』と『嫌』という相反する気持ちが追いかけっこを始めてしまう。
想い合っている二人に対し、自分が抱く一方的などうしようもない感情を掴んで放せない。
二人とも……俺の大事な人なんだ。幸せになって欲しいのに、勝手に認めたくない自分が益々嫌になる。
胸元の手を……左右にずらして布越しに自分の乳首を撫でてみる……。
御主人様……エルンをこんな風に触るのかな……?
勝手にエルンを自分に置き換えて妄想してスリスリと布越しに触り、ツンと乳首が尖り形状が浮き立った。
それと同時に股間のペニスがヒクヒクと小刻みに動き出し、熱を帯びて硬くなる。
ペニスが熱を持った事で下着の前面が延び窮屈になり、布と強く接触した刺激で先が濡れた気がした。
「……ぁ……やっ……!?」
俺は濡れた感触に布団の中で慌ててペニスを露出させ、恐る恐る先端に触れるとヌルリと滑り、実際濡れ始めていた。
……どうしよう……。
自分の性的な変化に困惑しつつ、触る度に濡れていくペニスから得られる快感に弄るのを止められなくなってきた。
弄りながら性的な興奮が強まると同時に、妙な背徳感が自分の中に渦巻く。
……エルンや、御主人様は今……こうしているかもしれない……。
暗闇の中で、自分の熱い吐息と粘つく水音が部屋一杯に充満していく。
いつの間にか上掛けを捲り上げ、下半身を大胆に露出させて完全に反り返り昂るペニスと、自分の先走りに濡れる指で色濃くしこる乳首を夢中で弄る。
「はぁ、はぁ……御主人様ぁ……御主人様、好きです……好き、好きです……!」
涙が滲む声で想いを告げながら、俺は明日の為に用意していた着替えの上に置いたハンカチで素早くペニス先端を覆い、白濁を放出した。
ビクンビクンを身体が痙攣を起こし、ハンカチが濡れて熱く重くなる。
「~~はー、はー……く……は、はー……」
放出が終わり弛緩した身体をベッドに広げ、俺は濡れている指先で自分の固く閉ざされているアナルを撫でてみた。
濡れていくアナル……自分では怖くてこれ以上触れた事は無いけど、男同士はココを使う……くらいは知っている……。
"マーキング"を受けた時、自分の口内に入ってきた御主人様のペニスはとても太くて長かった……。
今より子供だから口の大きさも違うけど、今咥えたって同じ感想だと思う。
―ッぷ……
「ん……!」
俺は自分の濡れた指を一本……アナルに突き挿してみようと試してみたが、やはり怖くてほんの爪先くらいで止めた。
そして自分の精を受けさせたハンカチを洗いに、部屋に設置されている洗面所に向かった。
洗面所でハンカチを洗い、窓を開けて換気しつつ新しいハンカチを用意している服の上に置いて、俺は薄闇の中で姿見の前に立った。
……実に貧相な身体の自分……。
魅力の"み"の字すら感じられない。
俺は諦めの滲む息を一つ吐いて、窓を閉めてベッドに戻り布団を被った。
―……それから……今回もエルンは地平線が白み始める前に戻ってきた。
……向かった時と同じご機嫌な足取りで、今までに無かったシャボンの様な甘く爽やかな香りを纏い、新しいエプロンを一枚持って……
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