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第9話

ーー side 柊 碧生 ーー ** 伊藤先輩の横に座っていると、どうしても離れたくなくなって・・ 二次会なんて行きたくないから、理由付けの為にいつも以上に飲んだ。 介抱してくれる先輩は、しゃがみ込んで俺を見上げている。 眉を寄せた心配そうな表情もとても綺麗だな・・。 具合を見る為に、先輩の白くて細い手が俺の喉元に触れて・・・ 触れられた瞬間、胸の奥がビリビリと痺れるような感覚に襲われた。 もっと近づきたい・・・ そう思うと、たまらなくなってその首筋に顔を埋めた。 「先輩・・・・俺の家、遠いんです。今夜泊めてもらえませんか・・・?」 まるで女を口説くようなセリフ。 離れたくなくて、自然とそんな事を口走っていた。 先輩は快く受け入れてくれて、二人で一次会を抜け出してロビーに降りる。 少し酔いは冷めていたけれど、しんどいフリをしてゆっくりと歩いた。 ロビーに着くと、エレベータでの静けさが嘘のように騒がしくて・・ そこには先に終わっていた佐々先輩達がホールで談笑している姿があった。 ちょうどエントランスを背にこちらを向いて話していた佐々先輩は、エレベーターから出てきた俺と伊藤先輩にいち早く気づくと、驚いた表情をして駆け寄ってきた。 「蛍斗!柊君!経理課も、もう終わったのか?」 正直、今はこの人に会いたくなかった。 また、俺の心に黒いモヤがかかる・・・ 言葉が見つからずに黙ってうつむく俺の代わりに伊藤先輩が答えてくれて。 「ウチの課はまだなんだけどね、ちょっと柊君が飲み過ぎちゃって・・ 今から家に帰る所なんだよ。」 「家・・・・?」 「柊君の家は遠いから、今日は俺の家に泊まってもらうんだ。」 ニッコリと答える伊藤先輩。 佐々先輩は一瞬すごく複雑な表情をして・・ でも、パッといつもの営業スマイルに戻って俺の背中をポンと叩いた。 「柊君、気を着けて。蛍斗のこと、よろしく頼むよ・・・」 「も~ササ!何ソレ!お父さんみたいな事言わないでよ~ それに、お世話するのは俺!だよ!ふふふ。 じゃあ、またね。」 佐々先輩と目が合う・・射抜くような視線。 俺の事を見透かしているような・・・ でも、確証がないからヘタな動きができずに、精一杯の思いをさっきの言葉にのせたんだろう・・・ 佐々先輩に背を向けて、ホテル前の通りに停まっているタクシーに乗り込んだ俺達は伊藤先輩の家に向かった。 ガチャーーー 「どうぞ、まさか柊君に泊ってもらうとは思ってなかったから、 少し散らかってるけど・・・」 そう言って、少し恥ずかしそうにリビングに通してくれる伊藤先輩。 対面キッチンにカウンターが付いていて、リビングスペースは中々の広さだった。 散らかっていると言っていたその部屋はとても片付いていて・・ 朝読んだままの新聞が開いて机の上に置いてあるくらいで、シンクの食器も綺麗に片付けられている。 アイボリーの家具を中心に優しい色合いの部屋は、伊藤先輩らしいふんわりとした空間だった。 「あ、スーツ、脱いでてくれる?着替え持ってくるから!」 リビングの入口で所在無げに立ち尽くす俺の背中にそっと触れた先輩は、ソファーまでゆっくりと導くと自分はそのまま隣の部屋に入って行った。 上着を脱いでソファーで座って待っていると、先輩はワイシャツのままで手にスウェットを持って戻ってきた。 俺の事を心配して、自分の着替えよりも先に持ってきてくれたんだ。 伊藤先輩らしい優しさに心がジワリと温かくなる。 「これ、新品だよ。大きいサイズだから、柊君ならピッタリだと思う。よかったら、どうぞ。」 「大きいサイズ、ですか?」 「あ、ササが時々泊りに来るから買っておいたヤツなんだけど、まだ着てない新品だから・・・ッ・・うぁっ・・・・!」 ドサッーーーーーー 俺だけに向けられる好意じゃない、いつもそれを痛感させられる。 佐々先輩の為に買ったスウェットを、ニコニコと差しだしてくる先輩にひどくイライラしてしまって・・ 気がつくと、ソファーに押し倒していた。 ここからは、もう本能で・・ 先輩を近くに感じたい、もっと触れたいという一心だった。 ソファーに上向きに倒れた先輩の腰に跨って、体を押さえつけて覆い被さる。 肩を押さえこんで首筋に顔を埋めると、飲み会で付いたタバコの香りと伊藤先輩の甘い香りが混ざっていて・・・・ 俺は、思わずそこに舌を這わした。 耳の裏から、首筋・・・そのまま右手でシャツをたくしあげ、手を中に入れる。 「ふ・・・あっ・・・!?」 ビクリと肩を揺らした先輩を落ち着かせようと、優しく弧を描くようにうっすらと付いている腹筋を撫でる。 細いのに、締まった綺麗な体だ。 染み付いた習慣からか、無意識に胸に手を伸ばした。 当然、柔らかさなんて無くて・・けれど、そんな事は全く気にならない俺がいた。 クチュ・・チュ・・ 「あっ・・・あ・・・」 染み付いた香りを打ち消すように、甘い香りを舐めとるように・・・ 何度も何度も口づけて・・ 俺、こんなに興奮したことあったっけ・・・・ 今、伊藤先輩は俺の物だ。 めちゃくちゃにしてしまいたい。 そんな衝動に駆られて、ワイシャツのボタンを外しながら、強引に愛撫を続けた。 シャツが肌蹴ると、真っ白な体が目に飛び込んできた。 もっと触れ合いたくて、自分のシャツを脱ごうと体を起こすと、 アーモンド型の大きな瞳に涙を溜めた伊藤先輩と目が合ってーーー 「ふ、柊・・く・・ん・・・・・どう・・して・・・。」 少し震えた声で、俺に問いかける。 目尻に溜まった涙、ほんのりと赤くなった顔を見下ろす。 伊藤先輩は同じ男に組み敷かれてどう思っていたのか・・・ 激しく抵抗する訳でもなく、俺に問いかける。 ーーーどうして・・・?ーー 俺は・・皆と同じじゃない、俺だけの先輩が知りたいから。 うまく言葉にできなくて、ただ先輩の瞳を見つめていると 少し落ち着いた先輩が口を開いた。 「・・・酔ってるよね・・・?女の子と間違ってるよ。あは・・」 悟られないようにしているつもりだろうけど、声が少し震えている。 腕を伸ばして俺の肩を押さえる伊藤先輩の腕は声と同じようにカタカタと震えていた。 「間違ってないです。伊藤先輩。」 先輩だから、抱きたいんだ・・・ 一気にワイシャツを脱いで上半身裸になる。 先輩の腕を掴み、一纏めにしてソファーに押し付けると今度は唇に口づけた。 「ん・・ふっ」 手を振りほどこうとした先輩が腕に力を入れる。 振りほどけないと分かると、せめてもの抵抗か口をぐっと閉じて顔を必死に背けようとしている。 「先輩、口、開けてください・・」 言ってぐっと近づくと、俺の立ったモノが先輩の腰に当たった。 驚いた先輩は閉じていた目を見開いて固まっている。 次の瞬間、目尻に溜まった涙が一雫頬を伝ってソファーに落ちた。 「綺麗だ・・・・・・。」 赤く潤んだ瞳、零れる涙。伊藤先輩を形作るものはどれも本当に美しい。 思わず瞳に唇を寄せて次々と流れる涙を舐め取った。

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