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第28話 その恋の向こう側 - ギャルソン編 - (for Honolulu様)

*SSクイズ正解者景品作品 リクエスト「『その恋の向こう側』の哲と和樹の大喧嘩」 *本編→https://fujossy.jp/books/1557 *場面はここの、カツ丼屋を出たところから→https://fujossy.jp/books/1557/stories/85818 *大喧嘩ってほどの喧嘩はしてません(笑) ---------------------------------------- 「カツ丼、うまかったあ。」和樹はお腹をさすりながら言った。 「久々に食べたけど、やっぱり美味いな、この店。それなりの値段するだけあって。」涼矢は駐車場に向かう。 「なあ。」 「はい?」 「図々しいなって思わなかった? それなりの値段のもん、奢れなんて。」 「え、別に。いいよ、これぐらい。」 「おまえにとっては、上ロースカツ丼一杯1,800円は"これぐらい"かあ、さすがだな。」 「なんだよ、嫌味か? 金のことで喧嘩すんの、もう嫌なんだけど。」 「金のことじゃないもんね。」 「だってそうだろ、その言い方。」そう言いながら車のドアを開けて運転席に乗り込もうとした涼矢の肩を、背後から和樹が叩いて、振り向かせた。 「涼矢くん、ただでさえ金持ちなのに、楽しそうなバイトまでしちゃってるからさ、少しぐらい分け前をいただこうかと。」和樹はスマホの画面を涼矢にちらつかせて、そんなことを言った。 「なんだよ、写真? 何の……」涼矢はスマホに顔を近づけた。そして、「……うぁっ。」と声を上げた。  画面の写真は、涼矢だった。  アリスの店でバイトした時のものだ。ギャルソンエプロン姿だから、間違いない。  しかも、千佳とのツーショットだ。涼矢は、千佳と一緒ににっこり笑って、2人でワインボトルを掲げている。  その時のことなら、涼矢も覚えている。千佳がビンゴゲームで年代物のワインを当てた。当選者には順番に涼矢が商品を渡していた。その流れで、千佳にもワインを渡した。最初は普通にただ手渡しただけだ。でも、その時、千佳の連れの女友達が「記念写真撮るから、ワインを渡すところで、いったん止まってくださぁい」などと言い出した。千佳だけが写れば良いだろうと思って、自分が写り込まないよう手をうんと伸ばしてワインを渡す、そこで動作を止めた。だが、女友達は「もっとくっついて!笑顔で!」と更に要求した。千佳が申し訳なさそうに涼矢に目配せしてきた。それを見て、嫌がって長引かせるよりもさっさと終わらせたほうがいいと判断し、言われるままに「くっついて、笑顔」をしてみせた。  その時の写真だ。  だが、その写真そのもの、ではないようだ。女友達は真正面から撮影していた。これは、2人の体の向きからして、少しだけ斜めの位置から撮られている。同じ場面を、誰か別の人間が撮ったとしか思えない。 「なんで、この写真、和樹が。」 「きみの親友が送ってくれました。」 「親友って……哲のこと言ってんの?」 「はい。」 「あの、馬鹿。」涼矢は呟く。  和樹はスマホをいじり、今度はメッセージ画面を見せた。 [メリクリ~][イブだというのにカレピとラブラブできない和樹くんのために][哲ちゃんからクリスマスプレゼントだよ~~ん]  浮かれた文面の後に、今の写真が載っていた。和樹からの返信はないのに、続きがある。 [超超超かっこいー☆][お客のお姉さま方にもモテモテ][この女の子は大学の友達で涼矢くんとも仲良し!だからわざわざお店に来てくれたんだよ~ん][お似合いだよね!][でもちゃーんと哲ちゃんが見張ってるから、和樹くんは安心してっっっ][返事なーい淋しーい][和樹くんもバイト?][ちょ既読スルー悲しい][わーんごめんね、怒った?][涼矢くんは和樹くんLOVEだってば][いつでも2人の幸せを祈る哲サンタだから][愛をこめてxxx]  哲からの一方的なメッセージが並び、和樹からはひとつも返信していなかった。 「なんで哲、おまえのアカウント知ってんだ。」涼矢は茫然と画面を見ながら、そう言った。 「焼肉屋の時に連絡先交換しただろ。」 「あ、そうか。」 「そんなことより。何なの、これ。」 「バイトの時の。ビンゴ大会があって、賞品渡した。その、写真の子の友達に、写真撮るからポーズ取れって言われて。」 「それを哲も撮ったってこと?」 「うん、たぶん。」 「盗撮だな。」 「まあ、うん。そうだな。けど、だから、そういうわけで、決して疾しいことはないし、もちろん、その女の子は、単なる友達で……。」 「当たり前だ、馬鹿。」 「哲には、よく言って聞かせておくから。」 「おまえは哲のお母さんかよ、馬鹿。つか、もういい。」 「もういい?」 「俺、直接電話して文句言ったから。」 「哲に?」 「そう。」 「いつ?」 「このメッセージ来た少し後だよ。あいつもバイト中かなって思ったけど、こんなん寄越すぐらいだから、どうせ暇なんだろって思って。実際、すぐ電話出たし。」  違和感があった。ビンゴの時は店内はざわついてたから、写真を撮るぐらいはどさくさに紛れてできたかもしないが、メッセージを送ったり、通話までする余裕はなかったはずだし、そんなことをしていたなら涼矢も気づいたはずだ。涼矢は和樹の画面をもう一度見せてもらう。  メッセージのタイムスタンプからして、イベントは終わって、片付けをしていたあたりのことと思われた。もしかして、千佳に呼び出されて店外に出た時か。だとしたら、告白された後、店に戻るまでの間に哲はこんなことをやっていたのだ。女の子から告白されて、断って、その直後にこんなことをする神経が涼矢には理解できなかった。しかも、更にその後には、今度は涼矢のことが好きだと言い出しているのだ。和樹には口が裂けても言えないが。だが、そんなタイミングで電話をしていたというなら、哲は何か妙なことを和樹に吹き込んでいたりはしないだろうか。 「なんか、言ってた?」涼矢は恐る恐る聞いた。 「カッコいい写真が撮れたから、俺に送ってやろうと思っただけだって。相変わらず、へらへらと。」 「和樹は、それで?」 「……。」和樹の表情が、微妙に変わったのを涼矢は見逃さなかった。 「それで、どうした? あいつは謝った?」 「わざわざこんなの送り付けてふざけんなよって怒って。んで、ごめんごめんて謝られて。でも、格好いいだろって言われたから、うん、って言って。」 「……え?」 「他のはないのかって聞いたら、忙しくて、それしか撮れなかったって言われて。それで、ありがとうって……。」 「あ、ありがとう?」 「だって、この涼矢、マジで、格好いいなって。それで、俺が言いたいのは。」 「なんだよ、もう。」 「この店員さんの服、これさ、買い取りで今も持ってたりする?」 「んなわけねえだろ、店の借りただけ。」本当は哲のものを借りたのだが、言えない。 「そっか残念。じゃあさ、この写真のさ、女の子のとこカットして、涼矢だけにして、待ち受けにするやり方、教えて。」 「……。」涼矢は無言で車に乗り込んだ。慌てて和樹も助手席に回り込んだ。 「ね、どうやんの。」シートベルトをつけながら、和樹は言う。 「……うち帰ってから、教える。」涼矢はぶっきらぼうにそう言って、車を発進させた。

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