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14 再び公園 1
前回会った時に理一が口にした、「どうしてもこれ、という奴隷 に出会って、それを手に入れたいと思った」という言葉に、俺は悩まされていた。
理一がそれを口にした状況からその奴隷というのが俺を指しているのは間違いないだろう。
しかし、理一がSだということが事態を複雑にしている。
「手に入れたいって、どういう意味なんだよ……」
『奴隷を手に入れたい』というのだから、普通に考えれば好き勝手に出来る相手を手に入れるという意味だろう。
しかし、それならば動画で俺のことを脅迫し続ければいいだけのことで、俺の尾行に気付きながら何もしなかった理一の行動と矛盾する。
だいたい、自分が脅迫者だと職場や警察にバラされるリスクを犯して俺にあとをつけさせることが、どうして俺を手に入れることにつながるのかわからない。
「恋愛的な意味で、ってことはないよな……?」
理一のようにいかにもモテそうな男が、半分ほどの年齢しかないガキの俺に恋愛感情を持つというのは考えにくい気がする。
そもそもSMでも普通の恋愛関係というのが成立するのかどうかもよくわからない。
「それに、理一の考えてることもわからないけど、俺自身もどうしたいのかわからないんだよな……」
脅す者と脅される者という関係が成り立たなくなった今、理一と俺の関係は、ご主人様と奴隷というSM的な関係を別にすれば、セフレと表現するのが一番妥当だろう。
この夏休みは色々なことがあり過ぎて、男のセフレというくらいではあまり異常さを感じなくなっているが、かといってこの状態をこれからも続けていくのもどうかと思う。
正直かなり今更のような気がするし、これから先自分が誰かと恋愛するのかどうかもわからないが、それでもやっぱり好きでもない相手とセックスだけの関係を続けているのは、あまりよくないような気がする。
それに、例え脅迫じゃなくて互いに合意でも、大人が未成年とセックスするのは都の条例違反になるはずなので、誰かに俺たちのことがバレたら理一が罰せられてしまうというのもまずいだろう。
「やっぱ、もう終わりにしてもらった方がいいかな……」
色々変なこともされたし恥ずかしいこともさせられたけど、理一には自分がゲイだということを自覚する手助けをしてもらったし、気持ちいいこともいっぱいしてもらったから、このまま会わなくなってしまうのは残念だけど、やはりお互いのためにもその方がいいように思う。
理一はもう俺を脅迫する気はないようだし、変な趣味をしているけれど理性的な男だから、きちんと話せばわかってくれそうな気がする。
「今度あいつに会った時、プレイの後で相談してみよう」
とりあえずそう決めて、俺は理一の次の呼び出しを待つことにした。
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次の待ち合わせは、珍しくいつものホテルではなくて、少し離れた駅を指定された。
そろそろ暗くなりかけてきた夕方、待ち合わせ場所で待っていた理一は、俺を駅構内の人気 のないトイレに連れて行った。
「おい、こんなこと連れてきて何のつもりだよ」
公衆トイレにあまりいい思い出がない俺が理一を問いただすと、理一は持っていた紙袋を俺に差し出した。
「中でこれに着替えて来なさい」
「はい、ご主人様」
条件反射とは恐ろしいもので、命令口調になった理一に、俺は反射的にそう答えてしまう。
個室に入ってカギをかけ、袋の中身を取り出すと、襟と袖口と裾がチェックの生地で二重になっている淡いブルーの半袖シャツと、きちんとしたシルエットの紺のズボンと、シャツの袖口と同じ柄のネクタイが出てきた。
とりあえずシャツとズボンを替えて、ネクタイは絞め方がわからないので首にぶら下げて個室から出る。
「ああ、ネクタイは結べなかったのですね。
来なさい、結んであげましょう」
「はい」
理一は手際よく俺のネクタイを結ぶと、整髪料を取り出して俺の髪をセットした。
「うん、よく似合いますよ。
もう少し、背筋を伸ばしてみなさい……うん、そうです」
鏡の前に立たされ、理一の言う通りに背筋を伸ばしてみると、いつものいかにも普通の高校生といった雰囲気とは違って、まるで同級生の何割かを占めている「いいところのお坊ちゃん」みたいにきちんとして見えた。
「さて、それでは行きましょうか。
駐車場に車が停めてありますから」
車でどこに行くんだと不安に思いながらも、プレイに入っているせいで理一に従うことしか出来ない俺は、おとなしく理一の後をついていく。
理一は駐車場に停まっていたグレーのハイブリッドのセダンの助手席に俺を乗せると、黒い大きなアイマスクを取り出して俺に付けた。
そして視界を奪われた俺にシートベルトをつけると、そのまま車を発進させた。
「あの……どこへ行くんですか?」
黙ったまま車を走らせる理一に耐えられなくなって、おそるおそるそう聞いてみると、右隣から理一の声が聞こえた。
「今日は君と初めて会った公園に行きます。
たまには野外露出プレイもいいでしょう?」
淡々と告げられた言葉に、俺は自分の血の気が一気に引いたのを感じた。
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