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13 膝枕
理一からいつもの呼び出しがあった。
俺は少し考えて、結局呼び出しに応じることにした。
理一の勤め先がわかったのだから、あいつと取引して今すぐこの関係を終わらせることもできる。
けれども、この前の尾行の後、理一が単に俺を脅迫して好き勝手していたわけではなく、俺が自分がゲイであることを受け入れられるように手助けしてくれていたのではないかと気付いてから、この関係を終わらせることにためらいが出てきた。
「けど、夏休みが終わるまでには、どうするか決めた方がいいかもな……」
夏休みもそろそろ終わりに近づいている。
学校が始まれば理一に呼び出される回数も減るだろうから、それまでには理一の真意を探るなり、これから自分が理一とどうなりたいかを考えるなりして、答えを出さなければいけないだろう。
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「すみません、遅くなりました」
「いや、別に大して待ってないからいいけど。
それよりお前、なんか顔色悪いけど大丈夫なのか?」
約束の時間から5分遅れてホテルにやってきた理一は、なんだかひどく疲れた顔をしていた。
「ああ、申し訳ありません。
実は昨日あまり寝ていなくて」
「お前な……。
寝てないならわざわざこんなとこ来てないで、うちで寝てればいいだろ。
つーか、ここで今から寝れば?」
「確かに、そうさせてもらった方がいいかもしれませんね。
こんな状態では満足のいくプレイができそうにありませんから」
「いや、別にプレイはどうでもいいんだけど」
俺がそう言うと、理一は少し笑った。
「ああ、そうだ。
もしよかったら、膝枕でもしてもらえませんか?
君に膝枕をしてもらったら、よく眠れそうな気がします」
「は?」
「嫌なら別にいいのですけれどね。
まだプレイ中ではありませんから、命令というわけではありませんから」
「……いや、まあ、してやってもいいけど。
別に減るもんでもないし」
「そうですか?
ありがとうございます」
すでにシャワーを済ませてバスローブ姿だった俺がベッドに上がり足を伸ばして座ると、理一は服をゆるめて俺の太ももを枕にして横になった。
ちょっと重いけれど、別にまあ、我慢できないほどではない。
理一は横になると、ふぅとため息をついた。
「すみませんね。
夕べ夜中に患者さんの容態が急変して、処置するのに明け方までかかってしまったので、あまり寝る時間がなくて」
なんでもないことのようにさらっとそう口にした理一に、俺の方がぎょっとしてしまう。
「おや、どうかしましたか?
ああ、その患者さんでしたら持ち直しましたから心配いりませんよ。
まあ、高齢の患者さんですから、完全に安心というわけではありませんけれど」
「いや、そうじゃなくてさ……。
お前、なんで俺に自分が医者だってバラしてるわけ?」
「だって、君、私が医者だってもう知っているでしょう?」
なんでもないことのようにそう言われ、俺の方が慌てる。
「お前、俺が尾行してたの、気付いてたのか?」
「ええ、ずいぶんとわかりやすい尾行でしたので」
平然とそう言われ、俺はなんだかぐったりしてしまった。
「お前さー。
気付いてたんなら、何でおとなしく尾行されてたんだよ。
自宅や職場が知られたら、俺が職場にバラしたり警察に言ったりするとか思わなかったわけ?」
「思いませんでしたよ。
君はそういうことをする子ではないと知っていましたから。
実際、君は私の個人情報を知っても誰にも言っていないし、今日もこうして私の呼び出しに応じてくれたでしょう?」
「いや、そうなんだけど、それにしたって……」
「まあ、確かにその危険性を全く考えなかったわけではありませんよ?
けれども、もしそうなったとしても、その時は私の見込み違いなのですから、甘んじて自らの罪を受け入れるつもりでした」
かすかな微笑みさえ浮かべている理一にそう言われ、俺は唖然とする。
「お前、いつもそんな危ない橋渡ってんのかよ」
「いつもではありませんよ。
どうしてもこれ、という奴隷 に出会って、それを手に入れたいと思った時だけです」
「え……」
それって、どういう意味なんだと俺が言葉に詰まっていると、理一が小さくあくびをした。
「すいません。
そろそろ寝かせてもらってもいいですか?」
「あ、ああ。
寝るのじゃまして悪かった」
「いえ。では、おやすみなさい」
「ああ」
本当に眠たかったらしく、理一は目を閉じるとすぐに寝息を立て始めた。
残された俺は、さっきの理一の言葉の意味を考えて、1人でぐるぐるしていた。
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ちなみに理一は30分ほどすると、すっきりした顔で目を覚ました。
そしてシャワーから出てくると、何事もなかったかのような顔でいつもと同じように濃厚なプレイを一通りこなした。
俺が理一に膝枕してやったことを後悔したのは言うまでもない。
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