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おまけ:理一の家 1

夏休みのすぐ後で、まだ電話調教始める前の話です。 —————————————————— 「今週末、うちに遊びに来ますか?  土曜日は少し出勤しなければいけませんから、その間は留守番してもらうことになりますけれど」 理一にそう提案され、俺は初めて理一のうちに泊まりに行くことになった。 金曜日学校が終わった後、一度家に帰って着替え、理一のマンションの最寄り駅で待ち合わせた。 仕事帰りの理一は、眼鏡をかけて髪をきっちりセットしていて、いつもとはかなり印象が変わっているので、なんとなく気になって、歩きながら何度もちらちらと顔を見てしまった。 「ああ、これだと落ち着きませんか?」 俺の視線に気付いた理一は、眼鏡をはずして前髪を軽くかき乱した。 それだけで、あっという間にいつもの理一に戻ったので、少しほっとする。 「いつもはコンタクトなのか?」 「いえ、眼鏡が伊達なんです。  職業柄、真面目そうに見えた方が何かと便利なので」 「ああ、なるほどな」 確かに普段の理一だと、医者というには顔が良すぎて、訪問医療でこんな医者がやって来たら逆にうさんくさく思われてしまいそうだ。 眼鏡をかければ真面目に見えるだけでなく、良すぎる顔も隠れてちょうどいいのかもしれない。 そんなことを話しながら歩いているうちに、理一のマンションに着いた。 ここに来るのは3回目になるが、中に入れるのは初めてだ。 オートロックの入り口を抜け、エレベーターに乗って3階で降りる。 「さあ、どうぞ」 「おじゃまします」 理一に招かれて入った部屋は、ごく普通のファミリー向けの部屋のようだった。 ドアがいくつかある廊下を抜けると、オープンキッチンのLDKがある。 部屋は片付いていたが、キッチンの洗いカゴに食器が入っていたり、ソファーの前のローテーブルに学術誌が乗っていたりして、それなりに生活感はある。 理一はキッチンで手を洗うと、エプロンをつけて冷蔵庫を開けた。 「あ、晩飯作るなら何か手伝うか?」 「いえ、だいたい準備しておいたので大丈夫ですよ。  よかったら待っている間、部屋の中でも見てきたらどうですか?」 「うん、じゃあそうさせてもらおっかな。  あ、あとトイレ貸して」 「ええ、どうぞ。  玄関横の洗面所の隣のドアです」 「わかった」 俺は持ってきたカバンを置くと、まずトイレを借り、ついでに隣の洗面所と風呂をのぞいた。 風呂は少し大きめだが、あのSMホテルのように鎖をつなぐフックがあったりすることもなく、普通の造りだった。 他のドアも順番に開けてみたが、書斎っぽい部屋も、ファンヒーターや掃除機が置かれた物置っぽい部屋も普通の6畳間だ。 最後に開けたドアは寝室で、シンプルなダブルベッドと作り付けのクローゼットがあった。 ベッドがダブルなのはちょっと引っかかったが、理一は今飼ってるのは俺だけだと言っていたので、あまり気にしないことにする。 こちらも調べてみたが、手枷足枷はもちろん、それらをつける金具もない、ごく普通のベッドだった。 部屋を一通り見て回ってリビングに戻ってくると、理一に「どうでしたか?」と聞かれた。 「うーん、なんていうか普通だった。  あのホテルみたいに、変なものがいっぱいあるのかと思ってたのに」 俺がそう答えると、理一は意味ありげに微笑んだ。 もしかしたら、普通だと思ったのは間違いで、開けてみなかったクローゼットの中にでも、変なものが入っていたのかもしれない。 「さあ、それでは食事にしましょうか」 「わ、うまそう!  いただきます!」 食卓に並んだ料理は、彩り鮮やかで品数も多く、いかにも栄養バランスがよさそうなのに、ボリュームもある。 食べてみると味も美味しくて、俺は夢中で食べた。 「美味しいですか?」 「ああ、すっげーうまい。  これ、全部理一が作ったのか?」 「ええ」 「へー、すごいな。  俺、料理なんか全然できないよ」 「みちるくんは普段どんな食事をしてるんですか」 「ん?  えーっと、朝はパンかシリアルで、昼は学食で、夜はコンビニ弁当かファストフードかな」 親は金は置いていってくれるけど食事は作ってくれないので、いつも自分で適当に食べる感じだ。 「あー、それだとかなり栄養が偏っていますね。  自炊しろとまでは言いませんが、育ち盛りなのですから、もう少し気を使った方がいいですよ。  例えばサラダや野菜ジュースを追加するとか、学食やお弁当でも栄養バランスの良いメニューを選ぶとか」 「あー……うん、今度からもうちょっと気をつける」 自分の食生活が適当だという自覚はあったが、医者である理一にそう言われるとやっぱりまずかったかなと思う。 今度からは理一の言う通りに、もう少し工夫することにしよう。 食事を終えて2人で後片付けをしてから、リビングのソファーに移動して、理一が好きだという洋画のDVDをかけた。 初めてみる映画でなかなか面白そうだったけど、理一がすぐ隣に座って、俺の肩や腰を抱き寄せたり、髪や首筋を撫でてきたりするので、ちっとも映画に集中できない。 「なあ、ちょっ、んうっ……」 抗議してやろうと理一の方を向いたら、いきなり唇をふさがれた。 そのまま後頭部と背中をしっかりと抱かれ、深く口付けられる。 まだ数えるほどしかされていない理一のキスは、しつこいくらいに丁寧で甘い。 今日もなかなか解放してもらえず、キスだけで俺はすっかり息が上がってしまった。 「ベッドに行きますか?」 理一のささやきに、俺は小さくうなずく。 理一はテレビを消すと、いきなり俺を横向きに抱え上げた。 「ちょっ! やめろって!」 「暴れると落ちますよ」 そう言われ、俺は慌てて理一にしがみつく。 幸い落とされることもなく、あっという間に俺は寝室のベッドの上に降ろされた。 「馬鹿じゃないの、重いのに」 お姫様抱っこをされた腹いせに悪態をつくと、理一に笑われる。 「コツをつかめば、大して重くもないのですけれどね。  というか、君、軽すぎますよ。  さすがにもう少し筋肉をつけないと」 「ほっとけよ」 俺がむっとすると、理一はまたちょっと笑った。 理一は俺の隣に座り、なだめるように俺の頭を撫でると、俺の顔や耳に軽く口づけながら、Tシャツの中に手を入れて腹や脇腹を撫でてきた。 くすぐったいようなもどかしいような微妙な感触に俺がもぞもぞしていると、理一はいきなり俺のTシャツを両手でつかんでガバッとめくった。 「はい、腕を上げてください」 「え、ちょっ、待て!」 俺はめくられたTシャツをバッと下げて元に戻すと、不思議そうな顔をしている理一に言った。 「今日は命令しないのかよ。  いつもだったら『脱ぎなさい』って言うところだろ」 俺の言葉に、理一は「ああ」とうなずく。 「いえ、今日は命令はしませんよ。  せっかく君が初めて我が家に来てくれたのですから、たまにはプレイではないセックスをしようかと思いまして。  それとも、嫌ですか?」 「えっ……。  いや、別に嫌じゃないけど……」 「嫌じゃないけど?」 「プレイじゃないんだったら、その、電気消してくれ……」 言いながら自分で「女子かよ!」と心の中で突っ込んだけど、それでもプレイでもないのにあんなことをしたら、理一の顔をまともに見ていられないだろうし、理一に見られるのも恥ずかしいから仕方がない。 理一は今度は笑ったりせずに、すんなり「いいですよ」と言って、明かりを暗くしてくれた。

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