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エピローグ
夏休みが終わると、予想通り理一にはあまり会えなくなってしまった。
理一は独身だからという理由で、休日や夜間の勤務が多いらしく、なかなか休みが合わないのだ。
それでもたまには今までと同じような『プレイ』もするし、平日の放課後などに食事やドライブや美術館に連れて行ってもらったりもしている。
「男とデートなんかしてて大丈夫なのかよ」と聞いてやったら、「男同士で一緒にいても誰もデートだなんて思いませんよ。私と君ならせいぜい叔父と甥といったところではないでしょうか」と言われたので黙るしかなかった。
プレイ以外で理一と会うのは何だか気恥ずかしいけれど、普段の理一のことをいろいろと知ることが出来るのは単純に嬉しくもある。
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「そういえば理一って、俺のこと『治療』してるつもりだったの?」
前に考えたことをふと思い出して、理一にそう聞いてみたことがある。
「治療、ですか?」
「うん。
俺、理一に会ったばかりの頃は、自分がゲイだって薄々は気付いてたけど、それを認めたくなくて足掻いてたんだよね。
けど理一がうまい具合に誘導してくれたから、俺、自分がゲイだってこと自体は割とすんなり受け入れられたんだ。
だから、理一が医者だって知った時、俺のことも治療っていうか、カウンセリングしてるつもりなのかなって、そう思ったんだけど」
「ああ、そういうことですか」
理一は納得したように大きくうなずくと、少し笑った。
「せっかく君がいいように解釈してくれているところ申し訳ありませんが、あれは『治療』ではなくて、『調教』というのですよ」
「調教?」
「ええ。
私はあの時、君が公園に入っていくところを見かけたのですけれど、その時から君がなんとなく思い詰めた顔をしているのが気になりました。
そしてトイレで君が自慰で達した後、悔しそうな声を出したのを聞いて、君がまだ自分の性的指向を認められていないと確信したのです。
まだ誰の手垢もついていない人間を1から調教してみたいというのは、多くのSが持つ願望ですからね。
その点、まだゲイであることすら認めることが出来ていなかった君は、理想的だったわけです。
あの時、男の手で達することを怖がっていた君が、私の与えた甘言にすがりつくようにして、私が与える快感を受け入れる様は、本当に可愛らしかったですよ」
「……悪趣味すぎ」
「それはSにとっては褒め言葉ですね」
そう言って理一はふふっと笑った。
「まあ、思春期の頃に自分の性的指向に気付いて思い悩むのは、ゲイにはよくある話です。
きっと君も私に出会わなくても、大人になって他のゲイと話す機会が出来れば、自然と自分がゲイであると認めることが出来ていたと思いますよ。
ですから、私によってゲイであることを教え込まれたことは、君にとってはむしろ不運だったかもしれませんね」
「……不運じゃねーよ。
教えてくれたのが、理一でよかった」
照れ隠しに早口でそう言ったけど、理一はちゃんと聞き取れたようで、黙って俺の頭を撫でてくれた。
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そんな話をした後、「不運ではないと思ってくれているのでしたら、もっと本格的に調教して差し上げましょう」と言われて、電話やスマホのメッセージを使って理一から『調教』を受けることになった。
ヤブヘビだったと、一時は余計なことを言ったことを後悔したが、すぐに俺は理一の『調教』を楽しみにするようになってしまった。
理一の指示は「よくこんなこと、思いつけるな」と思うほど、エロかったり恥ずかしかったりして、それを実行するたびに俺は、後で思い出して悶え転がりたくなるくらいに、感じまくって乱れてしまうのだ。
あんな変態的な調教で、あれほど感じてしまうなんて、やっぱり俺は理一の言う通りMの素質があるのかなと自覚せざるを得ない。
調教は多岐に渡っていて、エロいことだけではなく、食事の内容を報告して悪いところを指摘されたり、ジョギングやストレッチと言ったトレーニングを指示されたりもする。
理一からはその理由を「君は私の犬なのですから、私のために健康と美しさを保つ努力しなければいけません」と教えられた。
正直、今までは自分の体のことなんか意識してなくて、食事も運動も適当だったけど、理一のためだからと思うと、そういう努力も全然苦にならない。
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そんな感じで、俺は理一の調教によって、立派なMになるための道を着々と歩みつつある。
時々ふと我に返って、これでいいのかなと思うこともないわけじゃないけど、それで理一が喜んでくれて、一生理一の側にいられるのなら、まあそれでもいいかなと思っている。
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