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第142話
あの時、眼鏡をわざわざ届けてくれた香乃先輩の事を無礼な奴だと思ってしまった。
だって強引に顔を見られ、眼鏡を否定されムカついたんだ。
それと別の日…粉川とランチしていた時に、僕はおでこにキスをされ注目を浴びた時も、相手は香乃先輩だった。
大好きな成谷先輩ではないのに、その出来事はとても強く印象に残っている。
……あはは…面白いな。
あの時の行動は、周囲を驚かせて暫くの間生徒たちの間で話題になっていたっけ。
恥ずかしかったけれど…驚いたけど、そんな香乃先輩とは今ではとても仲良しだ。
特に決まった席があるわけでもなく、開いた席を確保し幸が先に席についた。
その幸にぽそりと一言。
「幸、見ててね」
そう言い残して、僕はスッと静かに席を離れた。
ゆっくり、ゆっくりと混み合う生徒の間をすり抜けていく。
目指すは一つ。
見失った大好きな人を探すのに、キョロキョロしつつもパスタを頬張る可愛い後輩。
好奇心旺盛で、いつも何かを探している様子は人目を惹き、注目を浴びている。
そんな可愛い彼に近づくと、さすがに僕の存在に向こうも気が付く。
モグモグ動いていた口がピタリと止まり、瞳が僕にロックオンする様子は本当面白いなって思う。
佳川って本当見ていて飽きない…今まで僕の周りにはいなかったタイプの人間だ。
動きが新鮮で発言がおかしくて何度も吹いて笑ってしまった。
「佳川…一人で食べてるの?」
佳川のすぐ隣まで行き、話しかけるとその周囲にいる生徒たちは会話の内容が聞きたくて自然と大人しくなっていく。
「ふぁ、ふぁい!あのそうです」
焦って佳川の口がモグモグ動き出すのを見つめながら、超笑いたい気持ちを何とか抑え優しく微笑んだ。
「あはは…本当、佳川って可愛いね。こっちにおいで、一緒に食べよう」
「…んぇ!」
目が点になっている佳川を席から立たせて、お互い向き合うようになりにっこりと笑顔で微笑んだ。
右手で彼の頬をなでながら見つめると、佳川の顔がみるみる耳まで赤くなる。
「ねぇ、佳川…わかってる?」
「ななななな…なにが……ですかっ」
「あはは!君がね、僕のお気に入りなんだってこと!」
そう周囲にも聞こえるように囁き、僕は佳川を抱き締めながら彼の唇にチュッとキスをした。
「……自覚しろよ?」
「」
わあああ!!!!っと沸く周囲の学生たち。
あの時、香乃先輩がしてくれた時と同じようなどよめきや黄色い声が沸きあがる。
今度は僕が佳川にするんだ。
思わず口にキスしちゃったけど、まぁ特別サービスってことで。
これは僕のだから手を出すな、っていう周囲へのアピール。
この学校での佳川の地位は正直弱い…誰かに守ってもらわないと、あっという間にまた誰かに襲われることになるだろう。
僕はこの学校に来る前から色々なものに守られているけれど、先輩たちが予防線を張り僕のことを守ってくれていることくらいわかっている。
後ろ盾になるくらい、君だったら大歓迎だ…喜んでなるよ。
これで大抵のやつらは迂闊に佳川に手を出すことはしないだろう。三階の僕に目をつけられたくないだろうから……
これは僕からの精一杯のお礼だと思っている。
あの時全力で助けてくれてありがとう……
僕の親友の事を好きになってくれてありがとう……
……お礼って言うのはまぁ理由の一つで、それくらい僕は彼の事が気に入ったんだ。
ちらりと見れば、幸がとても変な顔して固まってこちらを見ていた。
香乃先輩は楽しそうに笑っている。
……あ”、成谷先輩……太我の顔が笑っていないような気が……えーと…あーとやばい……後でちゃんと言い訳しようと思うよ。うん…
「みみみミカ!ミカ!三階…せんぱっ!!」
「…ん?あ、佳川ー?大丈夫?じゃ、一緒に幸のところ行こうか」
「え!えええ!ちょっと…!このっ!この状態で!?」
赤くなったり青くなったりしてる佳川をひっぱりながら、確保してある席へ向かう。
もう騒いでいる周囲の生徒たちの事なんて気にならない。
気になるのはこれを見ていた恋人が今何を考えているか。かな……
ど、どうしようかな……
先ずは素直に謝る。うん……
その後で思い切り怒られる覚悟をしておかないと……
うんうん。
はは、あはは……
そう思いながらも、心は不思議とニヤけてしまうのだ。
だって、
最終的には太我に甘えられるってわかっているから。
困った顔をしながら微笑み、優しく抱きしめて欲しい…そう思った。
あはは、
そう思いながら大切な人の元へと急ぐ………
賑わうランチルームは、自然と元通りの静穏に戻っていき、涼風が肌に心地よい。
昼下がり、いつもと変わらない時がまた流れだす。
ミカイくんノお気に入り。終
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