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第1話

 母親に言われるがまま医者になった。けれど、五年の研修期間を終えた所でまだまだ新米。本来ならこれから経験を積んで一人前の医師として活躍していくのだろうが、俺は早々にやめた。  そもそも俺には向いていなかったし、母から引き継いだ会社もいくつかあるので、そちらをメインにやっていこうと思っていた。  ――と、言うのは建て前で、正直自分より出来の悪い人間に偉そうに命令されるのが気に食わなかったし、当直だのオンコールだので自分の時間が十分に取れないのは相当なストレスだった。  母から引き継いだ会社だけでなく自分でも何か新しい事がしたい、と初めに思い浮かんだのがゲイ向けの風俗店。我ながらくだらない、とは思ったが、ゲイ向け風俗店はあってもSMのできる店が少ない。どうせなら趣味を活かそうと、裏稼業としてSM風俗店を作ったのが一年前。  零夜(れいや)とは、店を立ち上げる時に知人の紹介で知り合ったので、出会って一年ちょっとになる。最初はいけ好かないやつだったが、今では打ち解けて結構何でも話す事ができるので、なんだかんだ一緒にいることが多い。 「素人はやめとけって。それにまだ高校生だろ? さすがにそれはやばい」  酒飲みが好きな零夜に誘われる事も多く、今日もこうしてバーに来ている。バーと言っても、裏にある休憩室を使わせてもらっているので、他の客を気にする事もなく話しができて気楽だ。  シックな店内とは違って畳に座布団、小さなテーブルとテレビが置いてあるだけの簡素な作りだが、こちらの方が落ち着く。

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