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その後…【紺庄健斗、吉田猛】
頬付先輩がいなくなってから一か月たった…
オレも進級して三年としての生活が始まり、紺庄先輩も大学に入学して一人暮らしを開始した
ちなみに先輩は一人暮らしの最初の一週間はホームシックがひどかった…
先輩とはほぼ毎日電話はしているけれどやっぱりそう頻繁には会えなくて…今日は久しぶりに先輩と会う日だった
先輩の一人暮らしの部屋には始めて入ることになるわけで…その…そう言うコトを期待していないわけではない…というか実は来る途中にちゃっかりコンビニで買ったゴムが鞄に入っていた…
頬付先輩の事を言えた義理ではない…
でも…
「たけるぅ~…なんでおれのプリン苦いのぉ~…」
「…先輩がカラメルソース作るときにちゃんと混ぜないからッスよ…」
「まぜたもん~!!なんでぇ~!!」
先輩がキッチンでじたじたと地団太を踏む
今は先輩にプリンの作り方を教えていた
先輩が定期的に食べないと死ぬと駄々をこねたからだ
………全然そう言う雰囲気ではない……
まだ昼だし今すぐ!!って言うほど我慢が聞かないわけでもないけれどその…少しだけ期待していた…
先輩はそろっと口に自分のプリンを運び『まずい~!!』とまた地団太を踏む
オレが作ってももちろんよかったのだけどせっかくならと先輩に教えてみるとすさまじいありさまの物が出来上がってしまった…
ちょっとだけ味見させてもらったけれど甘すぎの焦げすぎだった…
「……やっぱり猛のがいいよぅ…」
「…でもオレだってそんな頻繁に来れないんですから…」
「たけるぅ~…」
先輩は目をうるうるさせながら自分の作った甘すぎる焦げプリンを食べていた
まずくても最後まで食べるつもりらしい…
「それに先輩、洗濯と掃除ももうちょっとしましょうよ…」
「洗濯機も掃除機もボタンいっぱいでわかんないんだもん…」
「説明書あるでしょう?」
「読めな…」
「読めます」
初めてお邪魔した先輩の部屋は正直一か月ですさまじいありさまだった
洗濯ものが散乱し、散らかり放題で正直ゴミ屋敷一歩手前だった…
沙耶さんがげっそりして『なんとかしてくれ…』って電話を掛けてきた意味がやっと分かった…
はぁっと溜息をつきながら床に散らばる洗濯物を拾い集めて洗濯機に放り込んでは洗って行く
そして洗ってる間に部屋に掃除機をかけ、ごみをまとめて、先輩が横着してまだ明けていないダンボールを片づけた
ちなみにご飯は今のところ沙耶さんの作った冷凍の作り置きで生活しているらしい…
多分泊まっている今日明日の間にオレも作り置きを作って帰った方がいいだろう…
とにかくここが生活できる環境になるまでそう言うコトはおあずけみたいだった…
残念だけれども放っておくわけにもいかない
スイッチを入れて洗濯機を効率よく回しながら掃除と片づけを続けた
こうして先輩の部屋が何とか片付いたのはもう夕方になってからだった
ベランダから部屋の隅々に至るまで全部洗濯物を干しているが仕方がない…
何とか買い物をして簡単に晩御飯を作り紺庄先輩と食べた
「ふぁ~猛のご飯おいしかったぁ~…」
「……それは良かったです…けど、先輩次からはもうちょっとしっかりしてください…」
「……わかった…」
今日一日で凝ってしまった肩を解すために首をぐるっと回すとゴリッと音がなった
先輩はそんなオレの様子を見たこともあってか少し反省したみたいで、次からは家事を頑張ると約束した
「…っふー…」
「………」
深呼吸して先輩の隣に腰を下ろすと先輩が寄ってきてぴとっと体をくっつけた
先輩の体がくっついている部分からじんわりと暖かさが伝わって来る
先輩を見ると先輩はオレにくっついたままうつむいてじーっとしていた
……かわいい…
正直オレ自身相当な先輩レスだった
もうくっつかれるだけでいろいろヤバい…
でもこれって…そう言う雰囲気になってるよな…?
そーっと先輩の小さな手に手を伸ばす
そこに触れても先輩は何も言わずじーっとしていた
これは…いけそう……
「せんぱ…」
「猛」
「えっ、あ、はい…」
先輩の腰を抱き寄せようと伸ばしていた手を慌ててサッと引っ込める
別に慌てる必要もなかったのだけれどなんだか緊張してしまった
先輩は何やら真面目な顔をしていた
先輩の大きな目がオレを見上げる
「猛…寂しい…?」
「え?」
「…その、さ……おれが遠くに行っちゃって…寂しい…?」
「え…ま、まぁ…それは…多少は…」
「……ごめんね…」
正直に気持ちを伝えると先輩は謝ってしまった
先輩らしくなくてうろたえる
「……学見てね…もしかしたら猛も少しはこんな思いしてたのかな…って思ったの…」
「………」
「おれ全然気づかなかった…勝手に大学も決めちゃって…一人暮らしも………ごめん…」
「………」
先輩はオレの手をきゅっと握った
もちろん先輩と頻繁に会えなくなってしまったのは寂しい…でも頬付先輩見たく飛行機に乗らないと会えないほど遠くに行ってしまったわけではない
それに先輩がこの大学に行くために苦手な勉強を頑張っていたのも知っている
そんな先輩が謝るような事ではなかったけれど先輩としては一か月間胸につかえ続けた言葉だったんだろう…
首を横に振って先輩を見つめる
きょとんっとする先輩がかわいらしくて頭を撫でながら口を開いた
「大丈夫ですよ…寂しくないって言ったらウソですけど…でもこうやって会おうと思えばいくらでも会える距離なんですから」
「………」
「それに大学の事だって相談されてもオレ、先輩のしたいようにしてくださいって言いますよ」
「………」
ちらっと頭の隅に学さんの事が浮かんだ
もし…先輩が行きたい大学がここではなくて…それこそ頬付先輩の言ったT大のようなもっとずっと遠い大学だったら…それでもオレは先輩のしたいようにしてくださいって言えただろうか…
その答えはいくら考えても出てこなかった
「だから先輩、そんな不安そうな顔しないでください」
「……うん…」
自然とこぼれた笑顔を先輩に向けると先輩もえへへっと笑った
先輩の目がうっすら潤んでいる
あ…これは…予期せずなんか良い感じ………
そっと先輩の頬に手を添えると先輩は抵抗せず目を閉じた
そのまま唇を寄せて行く
そしてオレは先輩の唇にそっと自分の唇を重ねた
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