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その後…【桜井千鶴】

ピンクの人がいなくなってから一か月がたった… 私は進学した女子大でそこそこがんばっていた 夏輝ちゃんのすすめで女子大にして、夏輝ちゃんとは進路が離れちゃって不安だったけど女子大で良かった…男の子いないし… そこでふと杉田くんの事を思いだした 夏輝ちゃんは杉田くんと同じ大学だからたまにどうしてるか教えてくれるんだけど元気そうにしてるみたい…よかったな… あの日、杉田くんとピンクの人を見て、杉田くんにはピンクの人しか見えてないんだなって思うと少しだけ胸が痛んだ もうとっくに二度もフラれてるんだから関係ないんだけど… 「……桜井さん、手が止ってるわよ…」 「ッ!!すっ、すみませ…」 「少しぐらいなら考え事も別にいいけど仕事はしっかりしてね」 「は、はいっ…」 棚に商品を差し込み終わった女の先輩がレジに戻って行く 慌てて私も作業を進めた ………実は大学生になって始めたことがあってそれがこのアルバイトだった… 大学とおばあちゃんの家の間ぐらいにあるそこそこの大きさの本屋さんで働いている 一か月前のあの日…ちゃんとニコニコしながらピンクの人を送り出す杉田くんを見てなんだか自分だけ置いてけぼりされたような気分になった… 別に追いついてどうしようと思っているわけではないけれど私もいつまでもこのままじゃダメだな…って思って、そんなときにここのアルバイト募集のポスターを見つけた 本は元々結構好きだったしそれに杉田くんと一緒になったのも図書委員だったからなんだか頑張れるような気がした でも本屋さんって思ってたよりもずっと大変で…本は重いし、計算もいっぱいだし、他にもやることがいっぱいある… だから毎日くたくただった… 「……よいしょ…わっ…!!」 その棚に差し込む本をすべて差し込んで別の棚に移ろうと足元に置いていた本の入った箱を持ち上げた けれど思っていたよりも重たくて体が傾く そしてそのまま本屋さんの床に転んでしまった ぶつけた膝が痛い… 慌てて箱の中の本を確認するけれど大して持ち上がってなかったおかげでか本が傷ついたりってことはなさそうだった ほっと安心する でも… 「ちょっと桜井さん!!本を運ぶ時は気を付けてって前の時も言ったよね!?」 「すっ!!すみま…」 「本は大事な商品なんだから!!それにそんなに重い物持って転んだら危ないわ、桜井さんもそれに他のお客さんも」 「き、気を付けます…」 駆け付けた先輩に怒られてしまった… 大きな声にビクッと肩が震える 何となく図書委員の時の先輩を思いだして怖くなっちゃうけど、でも先輩の言った通りだよね… 本が大事なのもそうだけど、私の事心配してくれたんだし…危ないもんね… 反省反省と心の中で繰り返して深呼吸する 最近怒られてもそれがすべて私のとろくささや、のろさへのイライラから来るものではないってことも理解した… こうやって反省してるおかげなのか少しづつだけどミスも減ってきている…少しづつだけど… とにかくなんとかうまくやれているつもりだった あの先輩だって普段は優しくしてくれる よし…仕事に戻ろう 反省を終えて仕事に戻ろうと足に力を入れた、その時 「あんな大きい声で怒られたら怖くならない…?」 「えっ、わっ!!ひゃあぁ!!」 声を掛けられて隣を見ると知らない男の人が私のすぐ隣にしゃがみこんでいた ち、ちかい…!! 驚いて立ち上がろうとするとまた足を滑らせて尻もちをついてしまった 隣の棚に移動していた先輩に声が大きいとまた注意される だ、だれ…!? 慌てて起き上がるとその男の人は申し訳なさそうな顔をしていた 良く見てみればこの本屋に良く来るお客さんだった 「ごめん、驚かせちゃったね…その、良く怒られてるからつい…やる気なくなっちゃわないのかな~って…」 「………」 「これ、もともとこの本取りたかっただけなんだ、驚かせてごめんね…」 その男の人は私の持っていた箱から目当てだったらしい本を取り出すとレジの方に歩いて行こうとした さっきの… ついさっきこの人の言った言葉を思い出した 『あんな大きい声で怒られたら怖くならない…?』 彼の言葉と似ていた…私にとっては大切な言葉だった なんだかドキドキした 「あっ、あのっ…」 「……?」 「そ、その…わ、私が、わ、悪いから……その、まだあまりちゃんとお仕事覚えられてなく、て……それ、に…その…危ないし…」 「………」 頭がぐるぐるして意味の良くわからないことを言っちゃったような気がする しかもあとからこのやり取りを聞いてた先輩からは『お客さんには敬語』とまた注意されてしまった 男の人が黙ってしまってなんだかいたたまれない気持ちになる、早く何か言って欲しかった 「……そっか…?」 「……?」 「うん、そうかも…確かにそうだね、危ないもんね…そっかそっか」 「?」 その人は良くわからないけど納得したみたいでしきりと頭を立てに振っている それからこっちを向いて笑った 笑うとなんだか照れくさそうな感じが少しだけ杉田くんと似ている気がしてどきどきした 「じゃあ、バイト頑張って、また来るね」 「え?あ、はい…」 なんだか拍子抜けてしまう そう言って男の人は手を振って行ってしまった また来る…か… なんだかよくわからないけど胸がドキドキしていた

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