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その後…【藻府寛太、久遠夏輝】

頬付が空港から旅立ってちょうど一か月がたった… それぞれがそれぞれの新生活をスタートさせている 俺、藻府寛太も例外なくその一人だった 通っている大学に続く道を意中の女性と並んで歩いている 「あーあ…もう頬付がいなくなってから一か月たつんだね~、早い早い…」 「あれからもっとへこむかと思ってたけど杉田も思ってたより元気そうでよかったよ…」 「そりゃあ、小学生みたいに喋りたくなったとか言って人の秘密をべらべらしゃべる誰かさんみたいなメンタルしてないからね」 「…久遠さんその話やめてよ…」 俺はたまたま進学した先が憧れの久遠さんと、そして杉田と同じ大学でこうしてまだ仲良くさせてもらっていた 学部は違うものの久遠さんとはいろんな意味で杉田を心配して見守っている仲だ 三人で良く昼ご飯を食べたりもする 俺としてはもっと進んだ関係を望んでいるのだけれど、以前杉田と頬付の秘密を漏洩させてしまった前科があるからこう…強気に出れない… 久遠さんは持ち前の明るさで大学でもモテるから正直気が気ではなかったが、その反面今の距離感も悪くないと思っている 『最低』とまで言われた時に比べれば十分な進歩だ… とにかくそこまで焦って関係を進めようとは思っていなかった そりゃゆくゆくはそう言う関係にもなりたいけれどもまだ大学生活始まって一か月も経ってないんだ 焦るような時期でもない そんな風にここ一か月の事を思いかえしたりしながらのんびりと久遠さんと並んで学校へ向かっていた 「……ねぇ…藻府…」 「……?」 でも突然久遠さんに呼びとめられる 二、三歩進んで足を止めた俺は久遠さんより進んだ位置に立っていた 久遠さんはらしくなくうつむいてなにかを言いづらそうにしている 「そのさ…今度、授業が午前とかしかない日にさ…その…お昼、一緒に食べに行かない…?」 「…あー、じゃああとで杉田も誘って…」 「あっ!!いや!!ちがくて…」 「……?」 久遠さんに告げられたのはランチのお誘いだった 杉田と三人でよくお昼を食べるし学校の外のお店で食事することもあったからそのことだと思ったんだけどどうやら違うらしい 久遠さんは口をもごもごして頬を赤らめていた そして俺の前にスッと三本指を立てた手を見せながらやっとのことで口を開いた 「……三人でじゃなくて…二人で…」 「ッ!!」 久遠さんは照れくさそうに指を一本追って二を作って見せた そ、それって…!! 「デ…デー…」 「ちょっとやめてよ、そう言うのじゃないって…ただ…その…私、杉田と頬付のごたごたの時にもとはと言えば私があんたを巻き込んで、それで知っちゃった秘密なのに『最低』とかひどい事言っちゃって……それって、その……自分の事棚に上げといてないなぁ…って思っ、て…その…お詫び…って言うか…」 久遠さんが口ごもる お詫びだろうがなんだろうが久遠さんと二人で…しかも久遠さんからの誘いでお昼に行けるって時点で俺は舞いあがっていた ここが道の真ん中じゃなければ叫んでいたかもしれない…というか道の真ん中だけど叫びそう… 「とにかく!!食べたい物決めといてよ…」 そう言って久遠さんはすたすたと先に歩いて行ってしまった 慌ててその後を追いかける 前言撤回…今のままの距離感がいいなんて…そんな賢者ぶった事言ってらんない…早く、今すぐにでも彼氏彼女の関係になりたい… 本人は気づいてないけどいっつも頬付好き好きオーラでいっぱいの杉田の傍にいるからそれに影響を受けてしまったのかもしれない… 脳内でスケジュールを思い返して急いで午前授業の日を探しながら少し先を早足で進む久遠さんを追いかける すでにその日が待ち遠しくてたまらなかった

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