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鬼の大事な物

久々に収まらない怒りが体中巡ってどうにかなりそうだった 「吉田ぁ~」 ニヘニヘと須王が気持ち悪く笑う 須王はオレの一つ年上だったが昔からああいう大柄で礼儀のなってない態度でそう言うところがすごく嫌いだった 目の前には何人もの須王の取り巻きと裸で椅子に縛られてえぐえぐと泣く紺庄先輩、そして地面に倒れてボロボロになったまま動かない若葉もいた ………若葉まで…… 紺庄先輩の口が小さく「たける…」って動いてオレと目が合うとくしゃっと顔をゆがめてまたぽろぽろ泣きだした 体がカッと熱くなるのを感じた すうっと息を吸っていったん自分を落ち着ける それから口を開いた 「………先輩と若葉返してください」 「あぁ?」 あくまで丁寧な口調で話す そうしないとあんな奴と同レベルになりそうで嫌だった 須王はまだニヘニヘといやらしい笑みを浮かべてる もちろん負ける気はしないけどできれば紺庄先輩もいる前でケンカはしたくない ………まぁ…さすがに今日は無理だろうけど…… 「お前なんでここに呼ばれたかわかってんのかぁ?」 「……どうでもいいです」 「ククク…そんな事言ってられるのも今のうちだけだ」 須王は一昔前のヤンキーみたいなセリフを言っては仲間と目配せして笑う すると先輩が座ってる椅子が須王の脇まで持ってこられた 「せっかくだしなんだぁ?決着つけようぜ?」 「………」 須王は強気だった …今まで勝ったことないくせに…… 「わざわざ吉田君が来てくれたことだし?正々堂々勝負してやるよ、いいかお前ら絶対手出すなよ」 「ククッ、へーい」 「『手』は出しませーん、『手』はね」 「足は出るかもしれねぇなぁ?」 「あぁ、うっかりな、うっかり」 そう言うと意味ありげに須王の取り巻きが紺庄先輩の椅子の背もたれに手を掛けた ………クズが… そもそもこいつらは正々堂々なんて勝負する気ないんだ 紺庄先輩を人質に取ってオレが手を出せないようにして寄ってたかって一方的にボコりたいだけ… 「ほーら、来いよ吉田ぁ」 取り巻きは須王と同じようないやらしい笑みを浮かべて紺庄先輩の首にナイフなんて当てている 紺庄先輩はヒッと小さく声を上げて怯えてた 先輩の肌を全然知らないやつにあんな無遠慮に触られてることが不愉快だ… また紺庄先輩の頬を涙が伝う 本当にナイフ使う覚悟もないくせに… もう一度滾る気持ちを抑えてふうっと息を吐いた そんなんいくらでも好きなだけ殴らせてやる… オレの名誉を守ろうとしてた若葉には悪いけどオレは別にそんなこの辺でケンカが一番強いなんて言う地位に誇りも未練もない ニヤニヤ笑って須王が近づいてくる オレにとってはそんなしょぼい地位や名誉なんかより紺庄先輩や若葉の方が大事だ… 再度息を吐いて静かに目をつぶった

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