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番外編 ハッピー?バレンタインデー⑬
ピリリリリリリリッ…
無機質な音とカーテンの僅な隙間から漏れる光で目が覚めた。
(背中が暖かい…。)
首だけで振り返ると寝起きの目には少しばかり痛い金色の丸いものがチラリと見えて、昨日の事を思い出す。
寝返りを打ちすやすや気持ち良さそうに寝むる彼方を抱き締めると、素肌が直に触れて心地良かった。
眩しい頭に顔を埋める…彼方の良い匂いとさらさらした髪で鼻がくすぐったい。
「んン……」
暫くその状態で微睡んでいたら居心地が悪かったのか、小さく声を出して身動ぎをした彼方が頭まで布団に潜り再び静かに寝息を立て始めた。
ピリリリリリリリッ…
また鳴り出した嫌な音に邪魔をされ今度こそはっきりと意識が覚醒する。
俺が彼方を起こさないようにアラームを止め仕事へ行くための支度を始めようと体を起こすと、くいっと何かに手を引かれた。
見ると彼方が顔の側にあった俺の手を握り締めぼんやりと数度瞬きを繰り返していた。
「…わり、起こした?彼方今日休みだろ、まだ寝てな。」
「………」
「おい?…どうした?」
まだ若干寝惚けているのか掴んだ俺の手を見て返事をしない彼方に再度声を掛けると、手を見つめたまま少し掠れ声でゆっくり喋り出した。
「……今日しごと……?」
「あぁ。だから俺この後出てくけど、お前はゆっくりしてけ。鍵は郵便受け入れといてくれれば良いから。」
「……ん。」
そう言うと彼方は触れていた手を自分の顔まで引き寄せてそのまま犬や猫みたいにすり寄った。
ん"ん"ん"ん"ッ……!!!!!
いや彼方さん…ん。って…返事したくせに全然離す気ないじゃないですか…寧ろ引き留めてるじゃないですか…止めてくださいよそういう可愛いこと急にやるの…普段一ミリもデレないくせに、何でこう構ってやれない時にばっかりデレるんですか……嫌がらせですか?それとも素でそれなんですか?そうですか。
…いかんいかん、あまりの可愛さに脳内で何故か敬語になってしまった。
正直今すぐにでも構い倒してやりたい気分、何なら朝からもう1ラウンドいきたいところではあるが、さすがに修羅場ってる仕事を休むわけにもいかない。
俺は泣く泣く準備をするために彼方に話し掛けた。
「…な、これじゃ準備できねぇよ。」
「………うん。」
「うんって……」
止めろよ、そんな寂しそうに言うなって…俺だって行きたくないんだよ……
「かなた…」
俺は名前を呼んで握られていた手を彼方の頬に添え、その流れのままに彼方の前髪を優しくかき上げて、露になった額に唇を落とした。
至近距離で目を見つめて再度名前を呼ぶ。
彼方は不貞腐れた様に目を伏せているので視線は交わらない。
「彼方…ごめんな、埋め合わせはするから…怒んないで。」
「……別に…」
怒ってない。
そう言った彼方の声は確かに怒っている風ではなかったがいつもより元気はなかった。
「そうか…でも、ごめんな。」
「…いいよ。俺は別に。」
言い終わると彼方が俺の首に腕を回して来たので、彼方ごと身体を起こし胡座の上に座らせて抱き締める。
彼方が頭を肩に乗せたので首筋に髪が当たってこそばゆかった。
「…俺よりも……あすが…」
「俺?」
ぼそぼそと彼方が続ける。
「疲れてるんだろ……仕事休めないのは分かるけど……、大丈夫なのかよ…」
「はは、何?心配してくれてたの?」
俺の事が心配で、でも仕事は邪魔したくなくて。きっと彼方はだから俺の手を離さなかったのだろう。
そんな彼方がいじらしくて、可愛くて…思わず笑みが溢れてしまい「…うざ。」とむっとした声で言われた。
「え、ひどい。」
「………ぃ、………じゃん。」
「ん?」
「心配、しないわけ無いじゃん…。」
「………」
「だからチョコ作ってきたんじゃん。殆どお菓子なんて作ったことないけど、作ってやる気なんてさらさら無かったけど、仕事で会えないとかごめんとか…そんな謝られたら作るしかないじゃん…。」
言っている間彼方は首に抱き付いたままで、どんな表情をして言っているのかは分からなかったが、抱きつく力が強くなっていたからきっと赤くなっていたのだろう。
「……ッ、あ"あ"あ"ぁぁぁぁ…もぉお前ほんっと……////////」
なんだか色々堪らなくなってしまって、俺は彼方と同じ様に首筋に頭を乗せてグリグリした。
「…仕事行きたくなくなんだろうが……」
「休もうかな…」俺がそう呟くと彼方が
「…いや、それはダメだろ。働けよ社会人。」
「………、まじでなんなのお前…掌返しが過ぎると思うぞ…」
「俺は旨い肉が食いたい。」
「…へーへー、分かりましたよ、稼いでくれば良いんですね。」
折角良い雰囲気だったのに…
俺は最後に首にキスをして渋々彼方を降ろしてベッドから立ち上がった。
まだ早いから寝てていいぞ。と彼方の頭を撫でて部屋を出ていこうとしたら、何故かまたその手を掴まれて引き留められる。
「…なんだよ、お前は一体、行って欲しいのか欲しくないのか、どっちなんだ?」
「……しないの…」
「?」
何が言いたいのか分からず彼方を見つめると、彼方はほんのりと耳だけを赤く染めて顔ごと目を反らした。
「……く、口に…しないの…?」
チラリ。
上目遣いにそんなことを言われて頭を抱える。
「お前…今日本当にどうしたんだよ…可愛すぎだろ……」
俺は先程立ち上がったばかりのベッドに、片膝と片手をついて彼方の顔に自分のを寄せた。
…俺も少し顔が赤いかもしれない。
「………今日だけかよ…」
「ふ…、いや、いつも可愛い。」
「…気障すぎ。」
「好きなくせに。」
「……んッ」
俺は文句が返ってくる前に彼方の口を塞いで後ろに押し倒した。
「ッ……はっ、おい…仕事行けよ…ッ!!」
「触って?」
彼方がぐいぐいと両手で胸を押し返してくるが、お構い無しに彼方のパンツに手を掛ける。
「はぁ!?なんでッ!!」
「彼方のせいで朝勃ちが完全に元気になってしまったので、責任を取ってください。」
「ッ/////なんッで敬語…ッ、あっ////////」
「ほら、彼方も手、」
「ぅあ、もっ…まじで…ッ、クソ親父!遅れても知らねぇかんなッ!!」
「んー…」
「あっ、あっ、そこっ……」
「…ッ、気持ちい…?」
「ンふっ…はっ、ぁ、ぁ、やだっ、もぅで…、」
「っ…、俺も…、はぁ……」
「……ッ、あっ////////」
「……ッ!!!」
その後俺は案の定遅刻してしまったけれど、仕事は誰よりも捗った。
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