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第1話
死体のように動かない。目の前にいるそれは血だらけで、放っていたら死ぬかもしれない。
目の前のこいつの他にも何人かそこで転がってはいるが、こいつよりは酷くはない。何だ?こいつは袋叩きにでもあったのか?
とりあえず、こんな現場を見てしまったんだ、助けてやらないのは俺の正義感が許さない。
ここまで血を流してるんだ、簡単に起きるわけはねえよなぁ。とりあえず迎えの車を呼んでその場でそいつの血を持っていたハンカチで拭きながらじっと待つしかなかった。
「……早河さん!」
聞きなれた組員の声。適当に返事を返してから、車を呼ぶときに頼んであったタオルでこいつを包み、車を汚さないように細心の注意をはらって、浅羽組がいつも面倒を見てもらってる医者のもとに直行した。
古い建物、薄暗い室内、そこに奴はいる。
「あらぁ~早河じゃないの~!」
「悪いトラ、こいつ見てくんねえか?」
「え~綺麗な男ならいいけどぉ」
俺達がトラと呼ぶこいつは歴とした医者であり、歴とした男だ。
血で汚れてるそいつをトラに渡すと目を輝かせている。どうやらタイプだったらしい。
「滅茶苦茶にやられちゃってるわね」
「やばいか?」
「まあ…でもちゃんと目覚ますでしょ」
そいつのことはトラに任せて俺は建物内にある自販機でコーヒーを買いベンチに座って待っていた。
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