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――母さんを騙して父さんを利用した? 気になるワードにピクッと反応してしまい抵抗が止まる。俺の知らない渥の過去だ。こんな時なのに凄く気になってしまう。 有紀は中指を口の中に入れて、唾液を絡み付かせると躊躇なく後ろへ指を這わせた。 嫌な予感に慌てて下半身に力を入れるが、そんなものは無駄な抵抗だと言わんばかりに口角を上げる。そのまま上を向いたままだった俺自身に顔を近付けてきた。 「う…わっ!?」 有紀は上を向く先端を舐めてから、形をなぞるように舌先でねっとりと愛撫した。 なんでお前はそんなにも平気で人のを舐められるんだよ…!と口に出すよりも感じないよう我慢するのに必死だった。 唇を噛んで膝先を震わせていると、突然ぐぷっと口の中に包まれて一瞬だけ完全に力が抜けてしまった。 「あ、ぅ…ッ」 狙っていたように指先が後孔に触れ、指の腹で割り裂くようにぬるぬると入り込んで来る。 「良かった。思ったより濡れてて。嫌でも濡れちゃうなんてホントΩって可愛い体だよね。それとも実はそんなに嫌じゃないー?」 「っ、生理現象、だ!」 口を離した有紀が笑みを浮かべてそんな事を言うので、首を振って否定する。 渥と似たような細くて長い指が、ゆっくりと奥へ進む。体の内側の壁が異物を押し返そうと締め付けるが、そんな圧を楽しむかのように中指はいやらしく動いた。 有紀は口角を上げ、俺の震える太ももへと舌を這わす。くすぐったい感覚から逃げたくて足を有紀の顔から遠ざければ、さらに足を開く体勢へと誘導された。 「そうそう、怖くないよー。痛いことはしないからね。深呼吸して? 大丈夫だよ、リク」 すりすりと指の腹で壁を擦る。いつも以上に優しい喋り方に、安心感どころか不安感が増す。 そんな労りができるくらいなら、冷静さを取り戻して欲しい。 「……だ、騙して、利用したって、どういう意味?」 「ん? ……んー、こんな時にもそっちが気になるんだ。そっか。まあ、そのままの意味なんだけど……あ! 俺の番になるって約束してくれるなら話してもいーよ! それなら俺たち家族になるんだから、父さん達のこと話してもおかしくないでしょ」 答えに窮する提案だった。 堂々と無茶苦茶な提案をされていることだけは分かる。 だが――…渥の過去が知りたい。 何故Ω嫌いになったのか。 それさえ分かれば、この前にも後ろにも進めないモヤモヤした状況が何か変わるかも知れない。 とは言え今後の人生に多大な影響を及ぼすであろう事柄をそう簡単にも決められないし、断ったところで何をされるかも分からない。 言葉を濁す俺を見つめていた有紀が、何も言わずに挿れていた指を増やした。

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