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第1話
その日のことは今でも鮮明に憶えている。
十二月の初めだ。その日はとても寒く、毎日外で遊んでいた俺でもさすがに外に出る気になれないくらい寒かった。
教室の中で冬になると出されるストーブにあたりながら、この寒い中外を走り回る同級生達をスゴイよな、と褒めた直後のこと。
同じくストーブにあたっていた保育園からの幼馴染兼大親友は揺らめく炎を見つめながら「おれ…」と口にしたのだ。
「来週転校することになった。桐根学園に」
突然だった。
なんの前触れもなくあいつはサラリとその言葉を吐いた。
先程まで、昨日見たテレビの話やあいつの弟の話をいつものようにしていた筈だ。
だから最初なにを言ったのか理解できなくて、もう一度聞き返した。
もう一度聞けば違う言葉が返ってくると思っていたのかもしれない。
でもあいつは最初に聞いた台詞通り、しかも一言一句間違えることなく答えた。
「来週転校することになった。桐根学園に」
ああ…どうして最後に「桐根学園に」なんてつけるんだよ。それさえ言わなければまだ会話を続けられるのに。
言葉が出なくて、返す言葉を探して、
結局「ふぅん」とだけ答えた。
それからあいつは宣言通り七日後に、五年間一緒に過ごした校舎から姿を消してしまった。
あいつはクラスの人気者だったから、最後の日にはみんな情けなく泣いていたけれど、俺は泣かなかった。
悲しくなかったわけじゃない。泣きじゃくって行くなよ、と叫び出したいくらい胸が張り裂けそうだった。
毎日一緒に過ごしてたのに、簡単には会えない場所に行ってしまうなんて想像できない。生まれて初めて経験する“別れ”だ。
だけど俺は、歯を食いしばって泣くのを我慢した。
泣いてしまえば、あいつにもう二度と会えないような気がして、我ながら女々しい考えだったように思う。
そしてあいつは最後の最後に俺を見て、「バイバイ」と笑顔で言った。
いつも別れ際に言い合う「また明日」じゃないんだ、お別れなんだ、と痛感する。
俺は寒さでかじかむ掌をぎゅっと握り締め、
「またな」
と答えた。
はらはらと校庭に雪の舞う小学五年生の冬だった。
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