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そもそも何故あいつが急に居なくなることになったのか、事の発端は数週間前の事だ。
赤ん坊の時に血液型検査をするように、すべての国民が10歳になるともう1つの血液検査をすることが義務付けられていた。
その検査をする前日に俺は雪が降るなか隣の家に住むあいつとその弟のいつもの3人で外で遊んでいた。久しぶりの雪にテンションが上がって雪の中を転げ回って遊んだ。
季節の変わり目ごとに風邪を引くような子供だった俺は、次の日の朝、案の定高熱をだして学校を休む羽目になった。
幼馴染は体が強い方なのか昔から滅多なことでは病気にならず、一緒に雪の中を転げ回ってたはずなのにいつも通り登校していった。
「検査はどうなるのって…大丈夫よ。風邪が治ってからお母さんと病院に行きましょ。そんな焦ったってどうせすぐに結果は出ないんだから、あんたは風邪治す事だけ考えてなさい」
母にたしなめられ、俺は泣く泣くその日の検査日を延長することになった。
いや、別に血を採られるのが楽しみだったわけではない。もちろん、ない。断じてない。むしろ痛いのは嫌だ。
でも俺はあいつだけが先に検査を受けることが、なぜが凄く嫌だった。
焦燥感みたいな、胸がざわざわするものを感じていた。
なんとなくあいつの結果は想像できていて、その結果が分かればきっと遠くへ行ってしまう。そんな気がした。
「αだった」
だからあいつの家に検査結果が郵送されてきた時には、ああ、やっぱりかと思った。
――“α=アルファ”
それはヒエラルキーの頂点に君臨するもののことを指す。
持って生まれたカリスマ性、遺伝子レベルでの能力の高さ、人の上に立つのに相応しい統括力。容姿端麗。全てを兼ね備えていると行っても過言ではないエリート中のエリート。それがαだ。
αの数は少なく全人口のおよそ20%しかいないとされている。70%を占めるのがβ=ベータ。ざっくり言ってしまえば“普通の人間”がβだ。
そして残りの10%がΩ=オメガとなる。
この種が1番数が少なく1番特殊で、1番厄介かも知れないと俺は思っていた。
まずΩには、子宮がある。女性には当たり前のことだが、これは男性にも当てはまる。つまり男性でも妊娠・出産をすることが可能なのだ。
そのせいか、Ωには発情期というものがあり3ヶ月に1度訪れるという。その期間が始まれば1週間は身体が火照り欲情し相手を誘うようなフェロモンを撒き散らす。自然現象なので自分で抑える事はできず、一度発情期に入ってしまうと仕事も学業もなにもかも手につかなくなってしまうだそう。
そしてそのフェロモンに異常なほど強くあてられ、引き寄せられてしまうのがαだ。
αとΩにはお互いを引き寄せる見えない力のようなものがあるらしい。
強い種を残したい動物の本能みたいなものかもしれないが、とにかくΩの欲情フェロモンは強烈で、時として近くにいるβまでをも引き寄せてしまうことがあるというのだから、恐ろしい。
それに伴いΩに対する強姦被害が後を絶たず、また3カ月に1度の頻度で訪れる発情期のせいで重要な仕事を担う事が出来ない。
Ωに対する風当たりはきつく、ヒエラルキーの最下層だ。Ωにだけはなりたくない。そんな思いだけがぼんやり心の中にあった。
だが、そのときの俺は風邪で検査が出来ず、自分がαなのかβなのか、はたまたΩなのかなんなのか分からず、ただあいつがαだということにショックを受けていた。
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