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04
季節は夏。セミが数年間の準備期間を経て地上を謳歌しているときだ。ミーンミンミンという聞きなれたコーラスもガラス一枚を挟んだ向こう側で、少しだけ緩和される。
それというのも人類の利器であるエアコン様のお陰で、全ての窓を閉め冷房のガンガンに効いた部屋にいられるからだ。非常に快適この上ない。
――と言いたいところではあるが、それは慣れ親しんだ自宅の部屋の中での話で、このエアコン様とは初対面。初めましてだ。
なんなら、この教室も先生もクラスメート達も。むしろこっちの方が本題である。
俺は緊張でどきどきする胸を抑え、ひとつ息を吸って、静かに吐いた。
「えー、と、みなさん初めまして。浅香 睦人 です。変な時期に転入してきちゃいましたが、早くこの学校に慣れたいと思っているので、今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます!」
申し上げてしまった。緊張しすぎだ、俺。
背後の黒板には、フルネームの横にふりがなで「あさか りくと」と書かれている。
言葉の最後に勢いよく頭を下げれば、教室内からまばらではあるが拍手が聞こえてきて安心して顔を上げた。
「はい、浅香ありがとう。というわけで、今日から2Cの仲間になった浅香睦人くんです。みんな仲良くするように。浅香の席は、あそこな」
ありきたりな台詞を吐いて白髪交じりの恰幅のいい先生――確か名を小林と言った――が、窓際の前から三番目の空いてる席を指す。
窓際じゃん、ラッキー!
「放課後には委員長に学校案内を頼んであるから。よろしくな、委員長」
先生の言葉に、今日から俺の席になった場所の後ろに位置する男子生徒が、はいと笑顔で答えた。
委員長というといかにも頭の良さそうなインテリメガネ君を勝手に想像していたが、彼は今時の男子高校生って感じで、さらに言えばなんだかすごく優しそうな男の子だった。
心の中でホッと一安心しつつ、早くこの視線の中心から逃れたくてそそくさと委員長である彼の前の席につく。それと同時に、ホームルームの終わりを告げるチャイムが流れた。
「はい以上!ホームルーム終了~」
小林先生の慣れた終了の合図と共に、教室内がいっきにガヤガヤし始める。
えーと、確か一限目は現文だったかな。事前にもらっていた時間割をガサガサ取り出していると、後ろからポンっと肩を叩かれた。
き、きた!
多少予想はしていたが、初めてのクラスメートとのファーストコンタクトに胸が踊る。勢いよく振り返ると、彼は少し驚いたような顔をしてすぐに柔らかい笑顔で微笑んだ。
「初めまして浅香くん。さっきも言われたけど委員長の渓 一 です。よろしくね」
丁寧に名乗った彼は笑顔のままスッと右手を差し出してきてくれたので、俺も慌てて左手を出す。
「初めまして!浅香です!えっ、と、渓くん?でいいのかな」
「渓でも一でもなんとでも呼んで。みんなはケーイチって呼ぶけど」
「ケーイチ?」
なぜケーイチ?
たに はじめ としか言われなかったから、なぜそんなアダ名になるのかピンと来ず首を傾げると、渓はあははと笑って机の中からノートを取り出してきた。
「ごめん、分かりづらいよね!これ、俺の名前の漢字。苗字が渓で名前が一だから、まとめて呼ばれちゃうんだ」
現文のノートのようであるそれには、氏名のところに渓一と綺麗な字で書かれていた。
あ、なるほど。そういうことね。
「へえ。じゃあ、俺もケーイチって呼んでいい?」
「もちろん。逆に俺は浅香のことなんて呼べばいいかな?」
「それこそ、浅香でも睦人でもなんとでも!」
そう答えるとケーイチは、じゃあ睦人って呼ぶよと笑って答えてくれる。
下の名前をチョイスされたのがちょっと嬉しくて思わず口角があがった。
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