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03
部屋を出ると廊下の窓辺にもたれかかって外を眺めている生徒が居た。
「あれ、ケーイチ…?」
そう声を掛けると生徒がこちらを向いた。やはりケーイチだ。
「睦人、おつかれ。もう終わった?」
「う、うん、終わったけど…」
「じゃあ帰ろ。カバン持ってきたよ」
「あー、でも俺…」
言葉を濁すと後ろからひょっこり顔を出した先生が、朗らかな声でケーイチを呼ぶ。
「渓じゃないか。ちょうどいいところにきたね。悪いんだけど浅香を生徒寮まで案内してやってくれないか」
「え!?先生っ俺…」
「もちろんです。行こう睦人」
俺の言葉に被せるようにケーイチが返事をして、腕を引かれた。
ケーイチは自分と俺のカバンを肩に掛けてわりと強い力で引っ張っていく。
俺はケーイチの後ろ姿を見つめながら、少し冷や汗をかいていた。
これ…やばくないか?
周りにはβで通してるのに、生徒寮なんて…怪しまれないだろうか。ただでさえケーイチたちには実家から通ってると言ってしまっているのに。
でもΩの優遇制度は一般生徒には知られていないらしいし、大丈夫、か?
そんな俺の不安をよそにケーイチはどんどん先を歩いて行った。
「うわー、デカイな」
なんだかんだで引かれるまま生徒寮まで来てしまった。近くに来ると建物の大きさに驚く。遠くから見ても大きく感じたが近くで見ると余計に大きく感じる。
「あ!ケーイチごめん!カバン!」
「ううん、いいよ。はい。で、睦人の部屋は何号室?」
「何号室……ええと…」
自分のカバンを受け取りながら、貰った鍵を見ると507と書かれていた。
「507って書いてるけど…5階ってことだよな」
「そうだね、俺も5階だから一緒に行こう」
「お、おう」
ケーイチ、相変わらず優しい口調なんだけど、なんか雰囲気がいつもと違うような…
とは言ってもケーイチに会ったのは昨日が初めてだから「いつも」を把握しているわけではない。
だけど俺が生徒寮に部屋があることについて何も聞いてこない。普通実家から通ってるって言われたなら不思議に思うよな。なんでだろう。
首を捻りながら俺はケーイチについてエレベーターに足を踏み入れた。
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