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(第三者視点) 廊下にある窓辺に体を預け、青い空を見上げる一人の少年。外から吹き込む春風に吹かれ黒髪がやわやわと靡く。 背後には進学校らしく授業が始まるまでの時間も机に向かい予習をする生徒達の姿が見え、廊下には既に人がいない。もうすぐチャイムが鳴るのだ。 「はあ〜…」 心地よい天候とは裏腹に疲労の色が見える溜息をついて、桃哉はガクッと項垂れた。 「安成さん…いつになったら財布思い出すんだろ」 桃哉が一つ年上の兄の恋人から財布を預かったのが一昨日の話。これで払っといて、と言われたので遠慮なく支払いをしたがあれ以来財布の主からの連絡がない。そういえば連絡先を知らない、と気付いたのが昨日の話だ。 どうするべきか悩み、結局桃哉は自分のカバンの中で保管することにした。 もちろん兄の春に渡せば一番手っ取り早いのだが気が乗らない。無いと困るものだと分かってはいながら、言ってしまえばこれが唯一の繋がりになるわけで… 「うわっ、キモ。俺キモ。なに考えてんだよ、…も〜面倒くせえなぁ」 学校の場所は知っている。春と同じ高校だから。しかし、自分から出むくのもなんだか癪に触るし、どうしたものか。 頭を抱えたくなって桃哉はズボンのポケットの中から小さなキーホルダーを取り出した。財布の持ち主から貰った大好きなアニメのレアキーホルダーだ。貰ってから肌身離さず持っている。もちろんこのアニメが好きだから持ってるのであって断じてあの人に貰ったからではない、と桃哉は心の中で誰にともなく言い訳をする。 「あ~ミクたん………俺も大概だよなあ」 ギュウと握り締められたミクたんと呼ばれたキーホルダーの女の子。 スクール水着姿がなんとも愛らしい彼女は、星の散らばるキラキラした瞳でただ静かに桃哉を見上げていた。 end.

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