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02
「それはいいとして、安成くん。狩吉とはどこで待ち合わせしてるの?」
俺の気持ちを察したのか気味の悪い笑みをサッと引っ込め、いつも通りの表情に戻った叶は机に両肘をついて尋ねてきた。
「桜の樹の下だよ。校門前の」
「いつ?」
「16時だけど…なんだよ一体」
他人事なのにそこは詳しく知りたいのだろうか、と不思議に思っていると叶は自分の体をずらして俺の視界を広げると、教卓の上に設置してある丸い時計を指差した。
「もう16時過ぎてるけど。行かなくていいの?」
「は……」
壁掛け時計を見ると、確かに短針が4の場所にあり、長針が3を丁度越えた辺りに居た。簡潔に述べると16時16分。
事態に気付いた瞬間、顔から血の気がひいた。
「ううう嘘だろ…!!!??」
驚きと焦りで勢いよく立ち上がると、反動で床に倒れた椅子が盛大な音を立てた。突然鳴り響いた衝突音に残っていた数人のクラスメイト達から痛い視線を送られる。
俺はというと自分で立てた音に自分で驚き心臓が止まりそうになっていた。
「もー、安成。落ち着いて…」
叶が呆れ気味に席を立とうとするのと同時ぐらいに、教室のドアがガラガラと開く音。
いつもの調子でドアの方に目を向けると、そこには今最も会いたくない、でも走ってでも会いに行かないといけなかった人が立っていた。
当たり前のように目が合うが、睨まれている気がしてならない。
やばいよね、やばすぎるよね。
何やってんだ俺の馬鹿あああ…!!
「あ、…か、狩吉、さん……えと」
モゴモゴと口籠る俺に、狩吉さんは怠そうではあるが迷いの無い速度でこちらへ向かって歩いて来る。咄嗟に俺は机の上に置いてあった自分のカバンをギュッと抱き締め身構えた。
そして、何やってんだ、遅ぇぞ!クソが!俺様を待たせるなんてコロスぞ!と罵声を吐かれる覚悟を決めた。
しかし、既に半泣きの俺に振り降りた言葉は予想外で、
「だいじょうぶ?大きな音、したけど」
という俺を心配するものだった。
正直拍子抜けしてしまったが、内心物凄くホッとしたのも事実。
「だい、大丈夫…!椅子をひっくり返してしまっただけで…その。ごめんなさい」
とりあえず謝る。
主語もないのに狩吉さんは、コクンと頷いてくれた。
分かったんだろうか…?約束の時間に行かなかったことについてだったんだけど。
「帰ろ」
狩吉さんはそう短く言うと、俺の手を握って歩き出すのでカバンを胸に抱いたまま、引っ張られるように後をついて出る。
叶は未だにニタニタと気持ちの悪い笑みを浮かべ、頬杖をついてこちらを見上げていたが気にしないことにした。
俺達が教室を出て少し立つと、背後からざわめきが聞こえてきたが、それもこの際気にしないことにした。
ほんとはすっごい気になったけど。
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