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着せ替え人形、再び!

いよいよ二日後、火山祭が始まる。 鬼八郎(きはちろう)たちも準備に追われていた。 「あー!やっと明後日かぁ……」 書類仕事ばかりが溜まってしまっており、机には(うずたか)く積まれた書類は鬼八郎を悩ませる。 「おい、サボるなよ。まだまだあるからな」 鬼一(きいち)は目を通した書類を鬼八郎の机に置いていく。 鬼一で処理できるものは自分で処理をするが、最終、委員長である鬼八郎の印がいるものが多いため、机には書類だらけになっていった。 「いや、お前が早いんだよ!何でそんなにたくさん書類があるんだよー!」 「てめぇがサボってるからだろうが!」 すぱーんっといらない書類を束にして、鬼八郎の頭をひっぱたいた。 「痛ってぇ!!何すんだコノヤロウ!!」 苦手な書類仕事でイライラが募っていた鬼八郎は握りこぶしを振り上げる。 一触即発の雰囲気を破るように、障子が開けられた。 「ちょっと!鬼八郎!!」 現れたのは、弟分の鬼三(きさ)の姉で呉服店を営んでいる夏鬼(なつき)だった。 「あんた、ちゃんと用意してるの!?」 「夏鬼?用意って……何の?」 急に現れた夏鬼にも驚きながら、夏鬼の言う『用意』の意味が分からず、首を傾げた。 「何のって……カノン、『美人自慢大会』に出るんでしょ!?」 『美人自慢大会』とは、火山祭の中で行われる大会だ。 美人自慢の男女が投票によって、その年の美人を決めるのだ。 ただ単に美人を決めるのではなく、その年、煌竜山に神官と共に向かい、祈りを捧げる。 何故、美人しか行けないのかは文献も残っていないため分かっていないが、神官は代々、祭りの時にはそのようにするよう、口伝えされていた。 「あ、そういえばそうだったなぁ……でもなぁ、カノンをよその野郎に見せるの嫌なんだよなぁ」 「何その独占欲。カノンも出たいって言ってたじゃない」 「そうだけど……」 あんな可愛いカノンが、他の奴らが見たら、絶対好きになる奴だっているはずだ。 そんなの、絶対許せない。 鬼八郎の中に嫉妬の炎が燃えていた。 そんなものが燃えるなんて、自分でも驚いていた。 そんなことあまり無かったからだ。 「……僕、出ちゃダメですか?」 ダメっていうか、嫌だなっていうか……ん? 「カノン!?」 夏鬼の傍でしょぼんとしている美少年。 フワフワとした蜂蜜色の髪に、紫と青の瞳は潤んでいる。 「うう……!今日も眩しいくらい可愛いっ!!」 鬼八郎は目を覆う。 だって可愛いんだもん。 「僕もお祭りに参加してみたいです」 「あ、あのな、カノン。確かにカノンは可愛いし、美人自慢大会に出ても何にも問題は無いと思う。でも、俺はカノンのことを大事だから、あまり人目に触れさせたくないというかなんというか……」 だんだんと言葉尻がしぼんでいく。 嫉妬深いなんて、すごくかっこ悪い気がしたからだ。 「僕は、鬼八郎様に『かわいい』って言ってもらえるの、少し恥ずかしいけど嬉しいです。それにこんな僕でもお祭りに少しでも関わることができるのって、この大会しかないなって思って……。選ばれるなんて思ってないけど、参加することに意味があるかなって」 「カノン……」 そんなことを考えてくれたなんて。 「ありがとう、カノン。嬉しいよ」 「僕もお祭り、盛り上げたいです」 「分かった。けど、俺がちゃんと傍にいることが条件!いいか?」 「はい!鬼八郎様がお傍にいてくれたら、心強いです」 えへへと笑うカノンは、陽だまりのような温かさを感じる。 「話はまとまった?さっそく衣装を決めるわよ!!」 夏鬼は持ってきた鞄を開け、着物を色々と出し始める。 ヒラヒラとした可愛らしい着物。 色もカノンに合わせてあるのか薄い桃色や水色が多い。 「わぁ、綺麗な着物が沢山ですね!!」 「どれもこれもカノンに似合いそうなものばっかだな!」 「とりあえず、着てみて決めましょうよ」 夏鬼に隣の部屋に連れていかれたカノンは次から次へと着物を着ていく。 着物だけではなく、髪飾りも変えたりしながら……本当の女の子みたいで、とても可愛い。 「あー!その桃色、カノンによく合う!!」 「水色もいいなぁ……花音の瞳にも合うし!」 「花飾り、こっちの方が合うんじゃないか?」 「いいよ!カノン、めっちゃ可愛い!」 「後ろ姿も……いいわぁ……」 「あんた……もっと言うことないわけ?」 全ての合いの手が鬼八郎で、その全てがベタ褒めであるために夏鬼は心底呆れていた。 「全部良いんだから、仕方ないだろー」 「カノンはどの着物が良かった?」 鬼八郎の言葉を全力無視して、本人に確認する。 カノンは今まで来た着物を思い返すも、「どれも素敵でした」と決められない様子。 「もー!仕方ないわ。最終兵器よ。カノン、こっちに来て!」 カノンをもう一度、隣の部屋に連れていく。 襖を閉めて、何やらゴソゴソと衣装を取り出しているようだ。 「カノン!これ、どう?」 「え!?これって……」 「カノンなら着こなせると思うの!こういう服初めて見たし、カノンにしか着こなせないと思うの!」 「でも……」 漏れ聞こえる会話に、鬼八郎は聞き耳を立てる。 困ったようなカノンの声が心配で、「おい、夏鬼、カノンいじめんなよ」と言っておく。 「いじめてなんかないわよ。絶対あんた、カノンが可愛すぎて倒れるから」 「はっ!こちとら毎日毎日カノンの可愛い姿を見てるんだぞ?」 普段可愛い可愛いと叫んでいるけど、倒れたことなんてないんだ。 一緒に寝てる時も、ちゅーしたい欲を抑え、日々煩悩との戦いを強いてるんだぞ? そんな倒れるなんてことねーから!! 鬼八郎の自信をよそに、夏鬼はカノンにこそこそと何かを話している。 「じゃあ、あんたが倒れたら、この服で決まりね!」 「倒れなかったら、今日着た服、全部カノンにやれよ!」 「上等よ!!」 服を着た後、スパンっと襖が開いた。 そのカノンの姿に、ぽかんと鬼八郎は口を開いていた。 いつもの和服とは違う。 黒い膝より少し上の腰巻みたいものを身に纏い、白いフリフリのついた前掛けみたいなものをつけている。前掛けは後ろで蝶結びにしてあって、長い靴下を履いている。 頭にも髪飾りのようなものをしているが、花の髪飾りではなく、前掛けと同じような白いフリフリのついた髪飾りである。 恥ずかしそうにしたカノンは鬼八郎の前までやってくると、夏鬼に言われたのであろうセリフを口にした。 「ご、ご主人様、僕……じゃなくて、私のメイド姿、どうですか?」 最高です。 鬼八郎は後ろにどさりと倒れ込んだ。

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