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第6話

※※※※※※※  卒業式は、無事に終わった。 今年は3年生を受け持たなかったとはいえ、自分の知っている生徒達が卒業していくのは、寂しさと嬉しさを感じる。特に今年は、少しばかり寂しさの方が大きい気がした。 式が終わって、卒業生達が卒業アルバムにメッセージを書いて欲しいと陽介のところにもチラホラ来た。  樹は、他の生徒達がいなくなったあたりに、ようやく陽介の所へ来たが、メッセージだけでなく夜の予定も欲しいと言ってきた。しかし、卒業式当日は、しっかり友人達と別れを惜しんでくるよう促して、陽介はそれを断った。大きい図体で、幼い子どものように口を尖らせて樹は駄々をこねたが、明日以降は会う約束をすると渋々承諾した。 そして、生徒達がいなくなった学校で、卒業式の残りの片付けや会議などをして、仕事が終わったのは夜だった。 その足で、陽介は花屋で桜の枝を2本買って、ある場所へ向かった。  薄紅色の花弁が外灯に照らされて、まるで雪のように暗闇を舞う。桜の木々が墓地の周りを囲んでおり、風が吹く度にお墓の前へ花弁が積もる。卒業式の時に見た桜と同じはずなのに、場所が違うだけで全く違う花のように見えた。 そして、洋型墓石が並ぶ中、陽介は迷うことなく1つの墓の前に立った。 『黒沢家』と書かれていた。 真新しい仏花が添えられていた。多分、御家族が添えたのだろう。陽介は買ってきた桜の枝を、仏花の入った瓶へそれぞれ差す。そして、しゃがみこむと両手を合わせて、静かに祈った。 「今年も綺麗だな?…黒沢先生」 故人の名前を呟きながら、陽介は穏やかに、けれど、寂しさを交えて小さく笑った。

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