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第177話

玄関を出るとすぐ先輩を見つけた。 「先輩!!」 ひどい顔をした先輩が振り返る 「雪輪…」 「先輩!!昨日美空と会わなかったんですか?」 「急用が出来て」 「美空より大事な用事?美空は…昨日すごく楽しみにしてた。普段そういう顔なんて見せないのに回りが気づくくらいに。先輩の大学近くで待ち伏せして驚かせるんだって楽しそうにして向かったんです」 「え?」 「待ってるときあんたが女といるのを見たって。自分よりその人を優先したのを見た…美空は…常に不安を抱えてた。あいつはそのうち先輩を離さないとならない日がくるってそう思ってた。自分は元々ゲイだけど先輩は違う。だからいつか離してあげないとならないんだって」 「何で。俺は離れる気なんてないのに」 「でもあんたは女を優先にした」 「それは…」 「美空のあんな顔俺は見たくなかった…俺がどんな思いで美空を諦めたかわかりますか?あんたならって信じていたのに…何で… 一時の気の迷いだったなら…興味本位だけだったら美空のこと好きになって欲しくなかった。付き合って欲しくなかった。男しか好きになれない俺たちはいつも不安と隣り合わせなんです。あんたにはわからないかもしれない。ましてや美空は初めて本気で好きになった人…それなのに…」 「雪輪。違う…昨日のはあれは…」 「相手が誰であろうと美空を傷付けたことにな変わらない。美空…返してもらいますから。俺だったらあんな顔させないから」 「雪輪。悪いけどそれは出来ない」 「じゃあ何で女を優先したんですか?」 一気に捲し立てる。先輩は戸惑ったようにでもしっかり俺を見据えて美空と離れることを拒んだ。 だったらどうして?わからない… 先輩はぽつりぽつりと昨日の人の事を教えてくれた。 彼女は先輩の産みの親で海外を拠点に仕事をしているので年に一度会えるか会えないかの相手。 仕事柄休みはほとんどなく急に休みになると突然やって来て誰の話も聞かなくて突っ走る人。 美空に会わせなかった理由は… 「あの人は日本の男が好きで特に美空みたいな雰囲気の人が好みなんだよ。だから会わせたら無駄にボディタッチとか挨拶のキスとかやたら触ってくるはずでそんなの美空にされたくないから…だから」 聞いた内容に唖然とする。 ただの…嫉妬…美空の事が好きすぎてとった行動だったと先輩の表情を見たらひしひしと伝わってきた。 嘘なんてついているようには見えないからこれが真実なのだろう。 それを見て美空はショックを受けてあーなってしまった… 「あんたの説明不足です。移動する前にせめて電話くらいすれば良かったんだ。母親と会うことになったって。大学の前まで母親が来たって。それでも美空は不安になると思う。二人でいる姿を見たんだから。さっき見せてもらった写真からするとどう見ても親には見えないし…でもその場で電話くらい変わって彼女に説明してもらったらよかった。本当に…もう…次はないですからね…」 「俺は美空のこと離す気はない。俺は美空が好きだ。一緒にいたい。お前があいつのことまだ思っているのはわかってる。それにお前ならあいつを大事にできることも…でも譲れない。俺はあいつのことが好きだから。話してくる。ありがとう。ごめん」 「先輩。次はないですから」 再度告げると先輩はしっかり頷き俺に背を向け美空のもとへ向かう。 「美空…お前…愛されてるぞ…しっかり捕まえておけよ」 誰にでもなく呟き俺は帰宅した。

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