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〈12〉秘密でござる

 ――二日後。  朝、校門をくぐったところで拙者の前方に雨宮氏を発見したので声をかけた。 「雨宮氏、おはようでござる」  すぐに振り返った雨宮氏は、拙者の顔を見るなり朝の挨拶を華麗にすっとばして、拙者の新しくなったメガネについて突っ込んできた。 「永田氏、おニューのメガネじゃん!! そういえば一昨日割れたんだっけ? 今度は瓶底じゃないんだね! 心なしかフレームがオシャンティ―だけど自分で選んだの!?」 「選んだのは八代でござるよ。これが一番似合うとかなんとか店員と意気投合しやがって、もう選ぶのがめんどくせーから言う通りにしてやったでござる」  別に瓶底メガネにそこまでこだわりがあるわけではござらんしな……いや、あれを掛け始めた当初は瓶底が珍しいし顔がよく見えないからイイと思って付けていたのでござるが……やはり実用性には勝てないでござる。うむ。   「へえ、さっすが八代先輩! センスいいね~!! なになに、部活を休んでわざわざ八代先輩と二人でメガネ屋さんに行くなんてどういう心境の変化? もしや……ついに付き合うことになったの!? ていうかまだ付き合ってなかったの!? ねえねえ教えてよ永田氏ぃ~」 うわ、腐男子うぜぇ……。 「別に付き合ってないでござるよ! ただ、昨日掛けてた臨時のメガネも度が合ってなかったから、メガネ屋までの道案内として連れまわすのに最適だったのが八代だっただけでござる」 「八代先輩、二日連続で永田氏にこき使われるなんてさぞ嬉しかったことだろうね……」  夢でも見るかのようにうっとりとした顔で言う雨宮氏。  なんか表情とセリフが合ってねぇな。 「こき使ったとか人聞きの悪いこと言うな! いつも迷惑かけられてるのは拙者の方なのだから、これくらいの手伝いはやって当然なんでござるよ」  もう二度と『八代センパイお願いします』なんて言わねぇからな! 「ふふ、でもよく似合ってるよ! なんかぐっと大人っぽくなった気がする~。色んなファッションにも合いそう! うん、永田氏瓶底メガネやめたらけっこういい感じのメガネ男子じゃん!? あとで資料写真撮らせてよ!」 「別に写真はいいけど、拙者と八代を新刊のモデルにはすんなでござるよ」 「ええ~」 *  二日前、メガネが壊れて八代が拙者をうちまで送っていってくれた日。  拙者が実は八代のことを好きだとか言われておおいにテンパってしまいどうしようかと思ったが、タイミングよくタクシーが到着して八代は家に帰った。  ひとりになって冷静に考えたところ、なんか丸め込まれたような――騙されたような気がして、拙者はブチ切れた。  ブチ切れた勢いで八代に電話をして、詫びとして明日メガネ屋行くのを手伝えと言ったのだが、なんか奴にとってはご褒美になったような気がする……いやいや!  そんなわけで、別にまとまったとか付き合ったなんてことは一切ないでござる!  拙者、八代のことなんか好きじゃないでござるしな!!  ただ…… 『永田君、こっちを向いて?』  そう言われたあと、今までで一番優しいキスをされて……不覚にもそれを素直に受け入れてしまったことだけは絶対絶対、雨宮氏には秘密でござる! 永田君、こっちを向いて【終】

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