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〈11〉嫌よ嫌よも…
「え……永田君、もしかして気付いてなかったの? 本当に?」
「い、いや、その」
八代のこの反応は、マジなのか……!?
いつもナチュラル強引に手を握ってきて、拙者はそれを毎回めちゃくちゃ嫌がっていたのに、途中からは手に力を入れてなかった、だと……!?
全然気付かなかったァァァ!!!
そんな馬鹿なことってあるのか!? あるのかよぉぉぉ!?!?
「とくべつ力を入れてなくても自分から握ってくれてたから、てっきり俺を受け入れてくれてるんだと思ってたよー」
「うあああああ!!」
無意識下の行動とはいえ、恥ずかしすぎるぅ!!
誰か嘘だと言ってくれ!!!
誰か……誰か……
拙者の周り、否定してくれそうな奴誰もいねぇな!?
「それに知らない奴らから勝手にカップル認定されても、永田君ぜーんぜん否定しないしさ」
「いちいち説明するのが面倒だからだ! 拙者が一日でどれだけの奴に声掛けられると思ってんだ! ほんっとに貴様のせいで迷惑千万でござる!」
「でも面倒だからって否定せずにいたら、周りは普通に勘違いすると思うなぁ」
「うぐっ」
それは正論だが……でも、誰が誰を好きだとか付き合ってるとかいう話は、最低限の知り合いが真実を知っていればいいのではござらんか!?
あ、でも拙者の周り、誰も拙者たちが付き合ってないって信じてねぇな……。
「もちろん俺は勘違いなんかしてないよ! 永田君は本当は俺のことが好きだって、ちゃんと分かってるからね」
「思いっきり本人から否定されてんのに!?」
こ、こいつ……馬鹿だ!
これだけ言っても分からないなんて、超ポジティブシンギング馬鹿だ!!!
「うーん……永田君は、頭で分かってないだけじゃないかなあ」
「あん?」
どういうことだ? 頭が悪いと遠回りにディスられてんのか?
そりゃあ拙者は勉強が大っ嫌いでござるけど!
「嫌よ嫌よも好きのうち……ってわけじゃないけど、実際手を繋がれてもほどかないし、キスだって受け入れてくれるし、こうやって俺が極限まで顔を近づけると耳まで赤くして顔逸らすような子がさ、一生懸命好きじゃないって否定したところで全然説得力ないよね?」
「は……ぇ? 耳まで真っ赤?」
それはいったい、誰のことを言ってるんだ?
たしかにそんな態度のキャラがギャルゲーにでもいたら、拙者もツンデレ属性としか思わないでござるが……。
いや、ちょっと待て!
まさか……
「そんな可愛い顔を毎日見せられてたらさ、どんなに鈍感でも照れてるか、好きって自覚が無いだけだろうなあって思うだろ?」
「んなッ……」
まさかまさかまさか
そうは思いたくないが、
思いたくはないがッ……!!
「ほら、また赤くなった! あーもう本当に可愛すぎるよ、永田君!」
やっぱり拙者のことかよぉぉぉ!?!?
――しかし、不覚にもいくつか思い当たるフシがあった。
それは、八代が『イケメンだから』勝手にそうなるのだと思っていた……が、拙者は同じく最上級イケメンの南條先生や千歳シンジを前にしても、別にどうにもならなかったんだ。
「う、うそだ……こんなの……ありえない!」
拙者がこいつのことが好きだなんて、そんなの絶対にありえないでござる……!!
だって拙者は男だし、八代も男だし、拙者はゲイじゃないし、でも生身の女は嫌いだな、二次元の美少女は別だが!
だからもし付き合うとしたら、ブサイクな三次元の女よりは性格の良いイケメンの方が百倍はいいかもしれない……と思わないこともないが、男同士だしな!?
あれ、なんで男同士ってダメなんだっけ……?
雨宮氏は男の南條先生と付き合ってるでござろう。
母だってさっき男同士でも構わないとか応援するとかなんとか言っていた。
じゃあいったい何がダメなんだ!?
ああああ! 毎日腐の者どもと接しているせいか、拙者は思った以上に毒に冒されているでござるゥ……!
「永田君、」
「ひっ」
顔が、身体が熱い。
今更、心臓がうるさく高鳴っていることにも気付いた。
少し身体を傾ければすぐに抱きしめられそうな距離で、顔に息がかかるところからふたたび甘ったるい声で名前を呼ばれた。
だから、そんな声で呼ぶなぁぁ!!
拙者は、拙者はおまえのことなんか……
「ねえ、」
結局また戦意を喪失してしまって、自分の足元を見た。
「こっち向いて……?」
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