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〈10〉攻防戦
ち、近い。八代の顔が、意味不明なほど近いでござる!!
壁に背を押し付けられ、奴の両手は拙者の顔の付いている。
別に大きい音は立てられていないが、これはいわゆる壁ドンとかいう女子が好きなシチュエーションでござるよな……!?
「永田君……」
息がかかりそうなくらい顔を近づけられ、少し切ないような甘ったるい声で呼ばれた。
こいつが拙者と同類のブサメンモブ野郎だったらこのまま頭突きをかまして一発K.O.してやるのでござるが、イケメンの抗えない迫力というか、とてもそんなことができる雰囲気じゃなくて――むしろ頭突きしたところで状況は変わらないような気さえする――思わず戦意喪失して下を向いてしまった。
ぐぬぬ……! 真正陰キャな自分がくやしいっ!
「俺ね、ほんとうにきみのことが好きなんだ」
「そ、それはまあ、知っている……が! せ、拙者はお前のことなんかぜんぜん好きじゃないでござる!」
だからそんな甘ったるい声で囁くなぁぁぁっ!!
男相手とはいえ、なんか変な気分になってくるだろがぁぁぁ!!
いつのまにか身体も密着してるしぃぃぃぃ!!
平常心を保つために、思わず下唇をぎりりと噛みしめた。
「知ってるよ」
「え? な、なら今すぐそこを退 けっ」
「口ではそんなこと言ってるけど、永田君が本当は俺のことをそこまで嫌がってないこと、知ってるよ」
……………
……………は?
今こいつ、なんて言った?
反射的にというか、思わず顔を上げてしまった。
拙者今、めちゃくちゃ間抜けなポカン顔を晒してる自信があるでござる。
顔が近すぎて、度のあってないメガネでもこいつの顔がよく見えた。
あまりにも顔面の配置が整いすぎてて、逆にムカつくんだが?
「あー、永田君は本っ当に可愛いなあぁぁ」
「貴様、こんだけ近くで拙者の顔を見てよくそんなことが言えるな……」
こいつ、真剣に拙者より視力が悪いんじゃないだろうか。
こっちは貴様がマジモンのイケメンだと再確認したところだぞコラァ。
「あ、ごめん! 永田君はかっこいいよ!」
「そうじゃねぇよぉぉ!!」
つ、疲れる!! こいつの相手は本当に疲れるでござる!!
ていうか拙者、何故こんな真面目に相手してるのでござろう!?
それにさっきからこのシチュエーションはなんなんだ!?
こいつはさっきなんと言った!?
「ねえ永田君、いいかげん素直に俺のことが好きだって自覚しなよ~」
「ふざけんな、いったいいつから拙者が貴様のことを好きだとか世迷言をぬかしたでござるか! なんで拙者が貴様のことを好きなことになってるでござるか! 自分に都合のいい妄想ばっかねつ造すんな、殺すぞ!!」
「え、だって手を繋ぐのもキスもハグも日常的に受け入れてくれてるし……それって俺のことが好きだからじゃないの?」
何真顔で抜かしてんだコラァァァ!!
キョトン顔がムカつくぅぅぅ!!!
「それな! 今日腐の者どもも言ってたが、貴様が勝手にしてくるだけだ!! 拙者は一度も許可した覚えはないぞッッ!!」
「でも、嫌がらないのは同意だって思うでしょ?」
「嫌がってる!! 拙者はめちゃくちゃ嫌がっているぞ!! でも貴様が馬鹿力で引き剥がせないんだよ!! こぉの卑怯者めッ!!」
「でも俺、いつも途中からは手に力入れてないよ?」
「え?」
なん……だと……?
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