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〈9〉八代の家族について

騒がしすぎる夕食を終えたあと、拙者と八代は再び自室へと引っ込んだ。 結局タクシーを呼ぶことになり、到着するまでのあいだ、八代と母に話をさせたくなかったからだ。 「はあ……」 「永田君、なんかごめんね? これからは親公認で末永くよろしくお願いします」 「いやいや待て待て勝手によろしくするな! というかあんな話を真に受けるな!!」  なんでもう付き合った気になってんだ、この野郎!! 「ふふっ、冗談だよー。でも、嬉しかったなぁ。俺は自分の親にあんなふうに言われたことないからさ。まあ色々理由は付けてたけど、なんだかんだ言って理解あると思うな、永田君のお母さん」 八代が今まで見たこともないようなさみしそうな笑顔でそう言うので、拙者はつい怒りを忘れて突っ込んだことを聞いてしまった。 「……貴様の親は、貴様がゲイだということを知っているのか?」 「うん。知ってるっていうか、ある日突然バレたちゃった。隠してたゲイ雑誌が見つかっちゃってさぁ……机の引き出し、二重底にしてたのに」 「デスノートかよ」 「自分が本当にそうなのかってことを確かめるために興味本位で買ったんだけどね。――まあそれで、一家全員大騒ぎの家族会議になっちゃって」 「マジか。地獄でござるな……」 「二番目の姉さんが腐女子だったからなんとか味方して貰えて事なきを得たけど、姉さんは隠れ腐女子だったから貰い火しちゃって申し訳なかったなぁ」 「お姉さんも地獄でござるな。……って、じゃあ貴様、美術部の連中のおかしな会話の意味も全部分かってるでござるか?」 「うん、大体はなんとなく」 「マジか、あいつらにとっても地獄でござるな。でも面白いから黙っておこう」 あいつら絶対八代が意味分かってないと思って好き放題アホなこと喋りまくってるからな。 卒業前辺りにネタバレしてやろう。 「それで、その当時好きだった人がシンジってことまで家族にバレて……」 「………」 「でも写真を見せたら『あー、これは惚れるわ』って妙に納得されちゃって」 「あん?」 「今じゃもうすっかり一家全員シンジのファンだよ」 「おい、家族めちゃくちゃ理解あんじゃねーか!! さっきのフリはいったいなんだったでござるか! !」  深刻な話かと思ってつい親身になって聞いてやった拙者が馬鹿でござったぁぁ!! 「でも、今俺が好きなのはシンジじゃなくて永田君だから」 「! それって……」 好きな相手が千歳シンジ『だから』家族は一応納得したけれど、それ以外の、ましてや拙者のようなモブが相手では、とうてい家族の理解は得られないということか……。 「いや、拙者的にはかなりどうでもいいけどな。貴様と付き合う予定は皆無でござるし」 「え~~! ちょっとは考えてくれてると思ってたんだけどな!?」 「なんででござるか! 妙な期待すんな!」 「はあ、永田君って見かけによらず小悪魔だよね……キスもハグも受け入れてくれるくせに、そんなつれないこと言うんだから。普通の男なら普通に期待しちゃうよ? もしかしてわざとやってるの?」 「は? 小悪魔?」  何を言ってるんだこいつは。  受け入れてるんじゃなくて、貴様が馬鹿力だから振りほどけないだけだろうが!!  それに小悪魔というのはあこりんのような二次元美少女だけにゆるされた特権――……って、なんかいつの間にか距離が詰められてる!?  さっきまで普通に離れていたのに、瞬間移動でもしたのかこいつは!! 「そんなところがまた魅力的だから、こっちはますます君に夢中になっちゃうんだけどさ……」 うおおおお、それ以上近付くなぁぁぁ!!

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